« 開け!フタ! 腕時計の裏蓋オープン | トップページ | やせ我慢は美徳それとも悪? ~母と暮らせば~ »

2016年1月28日 (木)

埋められて  ~リミット~

 人は、なぜ暗闇を怖がるのでしょうか?  それはおそらく、遙か昔には――などといわずとも、近代前夜まで、暗闇には凶暴なケダモノや、悪辣(あくらつ)な同族(ヒト)が潜(ひそ)んでいて、実際に身の危険があったからでしょう。  だから、本能的に我々は暗闇を恐れる。  ヒトは光の反射光を水晶体で集め、網膜に投影して知覚しています。  だから、暗闇では何もみることができない。  見えない=状況認識ができない、ということは、先に書いた「隠れたケダモノ」や「行く手横たわる深い崖」などに気づかず、命を落とすことになりかねません。  ごく幼い頃、ふとんを並べて寝ていた姉は、天井板の隙間、衣装タンスの上を指さして、「あそこに何がいるような気がしない?」と、しばしばわたしに尋ねました。  わたし自身は、それほど暗闇が怖くなかったので、当時は、姉の言う意味がよくわからなかったのですが、モンスターズインクなどでも知られるように、海外では、衣装タンスの中に何かが隠れているという恐怖、クローゼットお化けが生みだされていることから考えても、洋の東西を問わず、そういった感覚は共有しているようです。  自分の目線より高い位置にある暗闇を恐れるのは、おそらく肉食獣が、木々の上から、我々獲物を狙っていた ことに由来するのでしょう。  また、姉は、だんだん天井が下がってきてはいないか?とも尋ねました。  こういった「隙間の向こう側の恐怖」あるいは「釣り天井の恐怖」の意味は、精神分析などによって、ある程度解明がされています。  釣り天井に関しては――個人的には「吊り天井」のほうがしっくりくるのですが――  映画でも、インディ・ジョーンズシリーズなどで描かれていますし、実際に、江戸時代の宇都宮城釣天井事件(うつのみやじょうつりてんじょうじけん):二代将軍秀忠を江戸幕府年寄の本多正純が、宇都宮にしかけた釣り天井で謀殺しようとした事件などもあります。  まあ、これは冤罪ともいわれていますが……  ですから、上から自分を圧して押し迫ってくる天井の恐怖、というのも洋の東西を問わないものなのでしょう。  さきに、わたしは暗闇が恐ろしくない、といいましたが、それは子供の頃から、アウトドア生活をしていたからだと思います。  海外の大自然の下ならともかく、日本では、熊や蛇以外「自然の脅威」はそれほど多くありません。  優しい自然なのです。  わたしの所属していたボーイスカウトでは、年長者になると、夜間ハイク(深夜に山道をハイキングする訓練)のコース沿いに一人横たわって、時間をおいてやってくるグループを威嚇させられたのですが――  人里離れた山中の、山道から外れたくぼみに、灯りを消し身を横たえて、じっとしていると、山の暗闇には孤独な静けさなどなく、多くの動物の豊穣(ほうじょう)な営みが繰り広げられているのがわかります。  同時に、自分の到達しうる知覚エリアが、際限なく広がっていくような錯覚も感じて、まるで恐怖など感じないのです。(この感覚は、布一枚隔てて、野外で眠るテント生活でも感じます)  何がいいたいかというと、「開放的な暗闇」は、それほどおそろしくない、ということです。  子供の頃、どこかの景勝地へ泊まりがけの旅行に出かけたとき、ホテルのロビーにおかれた漫画雑誌(今なら簡単に調べられます。少年キングでした)で、横山光輝の「白髪鬼」を読みました。  その内容が、あまりに衝撃的だったので、せっかくの、「滅多にいかない家族旅行」を最後まで楽しめなかったほどです。  「白髪鬼」――ご存じの方も多いでしょう。  Amazonnで復刻販売されています。  英国の作家、マリー・コレリの小説「ヴェンデッタ」を、黒岩涙香が翻案したものです。  ちなみに「翻案小説」とは、『外国作品から、その内容やあらすじ はそのままにして、風俗・地名・人名などを自国に合わせて翻訳した小説』ですね。つまりは、いわゆるパクリです。  海外事情に疎かった明治時代には通用した手法ですが、現在では少し難しいでしょうね。  もちろん、黒岩涙香が悪意をもって翻案したわけではありません。  面白い海外の話を日本に紹介するにあたって、馴染みのない、いやそれどころか拒絶されるかもしれない見知らぬ外国の土地、人名を使うより、日本に移し替えて訳した方が良い、という判断だったのでしょう。  しかし、ややこしいことに、横山光輝の、というより、現在日本で知られる「白髪鬼」は、涙香版をさらに、江戸川乱歩が翻案(というのでしょうか)したものです。  ストーリーはひと言で言えば復習譚(たん)です。  金があり、美しい妻のいる主人公が、妻と友人の計略にはまって、その全てを失い、復習する物語。  しかし、白髪鬼の「キモ」は、そこにはありません。  妻と友人の計略により殺された(実際は仮死状態)主人公は、地下の墓所(って、日本ではないですね。そんなところ。このあたりに翻案にムリがある)で蘇生する。  暗闇のなか、かろうじてボロ布に火をつけて、辺りをみまわすと、白骨と、くさりかけた死体の山また山。  狂ったように、爪をはがし、土をほり続ける主人公。この描写が恐ろしい。  子供の頃のわたしはこれに衝撃をうけたのですね。  暗闇はいい。開放的であれば。  しかし、閉鎖空間の暗闇は恐ろしい。  必死に板きれで土を掘り続ける主人公は、ついに、地上へ抜け出します。  しかし、あまり恐怖のために、顔かたちは変わってしまい、髪の毛は真っ白に……←これが白髪鬼の由来です。  やがて彼は、募集掘削中に見つけた莫大な宝石(って、これも日本ではおかしいねぇ)をモトデに、富豪の復讐者となって、妻と友人におそいかかるのです――って、まるでモンテクリスト伯(巌窟王)ですね。  ストーリーは面白い。  だいたい、復讐譚が面白くないわけがないのですから。  「男の人生の神髄は復讐にある。復讐――対象があればその者に、何もなければ自らの人生に対しての」  誰の言葉でしたか、若い頃のわたしの大好きな「格言」です。 「白髪鬼」は、広い地下墓所への閉じこめでしたが、もっと狭い場所に閉じこめられる方が、一般的で「現実的」でしょう。  エドガー・アラン・ポー(奇しくも江戸川乱歩の名前の由来者ですが)による、「早すぎた埋葬」。  カタレプシー病(緊張病症候群のひとつ:ホームズシリーズにも出てきましたね)によって、突然からだが動かなくなり、仮死状態に近くなる主人公は、その状態のまま「誤って」埋葬されることを恐れ、棺桶に呼び鈴をつけ、墓所は内側から開くように改造をしています(映画「ジョン・カーター」も同様の細工をしていましたね)。  しかし、ある夜目が覚めた彼は、自分が、呼び鈴のない棺桶に埋葬されていることに気づきます。 「しまった、一番恐れていた、旅先での埋葬をされてしまったのだ」  それからの主人公の気持ちの葛藤は、実際に小説を読んでいただくとして――  なにかで読んだ事がありますが、土葬の棺桶の蓋には、よく、爪でひっかいたような跡がついているそうです。  医学の未発達の時代、しかも土葬であれば、実際に「早すぎた埋葬」をされた者も少なからずいたのでしょう。  二十年ほど前に、土葬されていた祖父母の墓を移し替えたことがありますが、墓地を掘り返し、まだ完全に朽ちない棺桶の蓋を開けた時に、つい爪痕がついていないか確かめてしまいました。  さいわい、ふたりとも無事に亡くなっていたようで、安心しました。  祖父は白骨化、祖母はミイラ化していましたが、ともに、気持ち悪い、といった印象はまるで受けず、何というか、大英博物館で見たミイラのような感じでした。  それはともかく、現代は法的に火葬が義務づけられていますから、早すぎた埋葬は、「生きたままの火葬」というものに形をかえているのでしょう。  そういえば、筒井康隆の読心少女、七瀬シリーズに、そのテーマを扱ったものがありますね。  さすがは天才です。  で、今回御紹介する映画「リミット」は、まさしくそんな生き埋め映画です。  もともとのタイトルが、「Buried」(土に埋められる:埋葬)なのですから。  2010年の映画です。  で、その内容ですが、  あるトラック運転手が中近東で捕まり、気がつくと、棺桶の中に閉じこめられていた。  持ち物は、電池の切れかけた携帯電話、油のきれかけたライター、そして棺桶野中には、残り90分の酸素。  登場人物は、ほぼ一人。  演劇での恰好の独り舞台シチュエーションです。  ソウシリーズ同様の、シチュエーション・スリラーでもある。  しかし、ソウとは違い、たった一人の登場人物で、どうやって90分の映画に仕立てるのか、楽しみにしていたのですが……  結論からいうと「ガッカリ」しました。  公開から数年たっているので、ネタバレしますが、  まず、上にも書いた、公式サイトの 「電池の切れかけた携帯電話、油のきれかけたライター、そして棺桶野中には、残り90分の酸素」 が、完全なウソなのがいけない。  電話がいつまでも切れない……残り1ゲージでどれだけ長いあいだ電話してるの、という感じです。  ライターのオイルは無尽蔵みたいだし、酸素も豊富。  酒やライトスティック、懐中電灯、ナイフさえも、あとからあとからでてくるし。  さらに、結末がアレで、その上ストーリー上も釈然としない点が多々残される、とあっては、せっかくの「閉じこめられサスペンス」がもったいない。  観終わって、なんだか時間を損したように感じました。  そのおかげで「白髪鬼」やポー作品なども、思い出すことが出来たのは、収穫でしたが……  とにかく、あまりオススメできない映画です。

|

« 開け!フタ! 腕時計の裏蓋オープン | トップページ | やせ我慢は美徳それとも悪? ~母と暮らせば~ »

銀幕のこと(映画感想)」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 埋められて  ~リミット~:

« 開け!フタ! 腕時計の裏蓋オープン | トップページ | やせ我慢は美徳それとも悪? ~母と暮らせば~ »