マイクは嫌われ者?
1877年といえば何の年でしょう?
我々、日本人には、「西南の役(せいなんのえき)=西南戦争」勃発の年として知られていますね。
あのセゴドン(西郷隆盛)が、不平武士の盟主となって起こした武装蜂起の年です。
が、音楽界においては違います。
この年は、かの発明王エジソンがフォノブラフ(蓄音機)を発明した年なのです。
つまり、ウォークマンの、ipodの祖先が産声を上げた年です。
一度、空中に放たれると、二度と再現できなかった空気振動(音)が、「再現」できるようになる、これは、まさしく音楽界における、エポックメイクなできごとでした。
そして、これは上記の発明を考えれば当然の帰結でもありますが、同じ年に、エジソンは、もう一つの大きな発明(特許取得)をしています。
それは、グラハム・ベルの電信機からヒントを得て作った「カーボン型マイクロフォン」です。
音を録音するために、マイクが必要なのはあたりまえだから、蓄音機ができれば、マイクも生まれているだろう、と単純に考えてはなりません。
なぜなら、エジソンの蓄音機についたマイク(の働きをする部分)は、ラッパ型の集音器に過ぎないからです。
朝顔の花のような菅に声を吹き込むと、その先に着けられた振動板が振動し、振動板につけられた針が、音に合わせて、回転するロウを塗られた筒に溝を刻む――のがエジソン音蓄音機です。
ですから、蓄音機には、実質マイクとよべる部分はないので、上記の「カーボン型マイクロフォン」は、まったく別物だと考えなければなりません。
これは、我々が、今現在、マイクと呼んでいるものとほぼ同じものなのです。
蓄音機は、消えゆく音を残すことで、音楽会に、楽譜以外の記録方法をもたらしました。
そして、マイクは、まさしく20世紀のポピュラー音楽の母となったのです。
なぜ、マイクがポピュラー音楽の母?
もちろん、もっと時代が下ると「ラジオ放送」が生まれ、それを通じて流れるポピュラー音楽が、世界で流行するようになった、ということもありますが、それより……
これまで、声量豊かな歌手、つまり「声が大きい歌手だけが歌手として認められていた」時代から、小さな声を「機械によって増幅し」て、大勢の人々に聞かせることができるようになり、ビング・クロスビーが流行らせた、囁くように甘く歌う「クルーナー唱法」のような、新しい歌の表現方法も生みだしたからです。
つまり、マイクは、音楽、特に人の歌唱方法すら変えてしまう力を持っていたのです。
それ以前は、現代のほとんどのクラシック同様、生音が基本です。
しかし、現実問題として、例えば、大ホールで、管弦楽をバックに「ひとりの人の声」を聞かせるのいは、ほどんど不可能です。
ですから、どことはいいませんが、オペラ劇場によっては、マイクを密かに用いて「ナチュラル」に、声を増幅すしている場所もあります。
そんなことをするぐらいなら、いっそ、最初からマイクを使えばよいのに、と思ってはいけません。
クラシック音楽家は、本質的に、マイクが嫌いなのです。
音楽学者のドナルド・グレイグは、「モーツァルトの時代には電気が無かったから」という心情的な理由の他に、音楽家は、直に自分の声を使うことで、聴衆と一体化すしようする傾向があることを指摘しています。
あるいは、マイクを使うことで、クラシックも、ポピュラー音楽が成し遂げた「歌唱法の変化」に対応することへの音楽家の嫌悪と恐怖があるのかもしれません。
人の声は小さい、マイクは嫌、そんなワガママな音楽家への唯一の回答は、技術の粋をつくした、音響効果抜群のホールの設計しかないのすが……
だいたい、わたしには、そんな素晴らしい劇場が、モーツァルトの時代に林立していたとは思えないのです。
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