« 200年後にはあなたもわたしも彼も彼女もアイツもいない | トップページ | 国によって、景色の基調となる色は違う―のか »

2012年7月21日 (土)

電子レンジでモノが暖まる不思議

 皆さん、おそらく電子レンジをお持ちでしょう。

 わたしは、いくつかの理由で電子レンジを持っていないのですが、あれば便利な製品です。

 でも、不思議ですね。

 火もないのに、モノが熱くなるなんて。


 友人に、某電機メーカーで、電子レンジの開発(というか改良?)に携わっている者がいます。

 しばらく前に彼と話していて、電子レンジにまつわる面白い話、あるいは知っていると思っていたけれど、実は勘違いしていたこと、などを発見しました。

 というわけで、今回は、久しぶりに理系アタマで、「電子レンジで、モノが加熱できるわけ」を、頼まれてもいないのに説明してみます。

 最初に書いた説明が分かりにくそうなので、よりわかりやすい説明に変えてみました。その結果、少し正確さを欠く表現になったかもしれませんが……
 それもこれも、わたしの力不足のせいです。もうしわけありません。


「電子レンジで、モノが加熱できるわけ」

 ネットで検索しても、「ものの仕組み」の本を読んでも、たいていの説明は、

「レンジ内で発生するマイクロ波が、分子振動させるため、分子摩擦によって加熱される」

あるいは、

「マイクロ波には、水分子を激しく震わせる性質があり、水分を含む食品に当てると食品中の分子同士がぶつかって、摩擦熱を出して熱くなる」

 と書かれています。

 そして、マイクロ波が、水分子を振動させて熱を出している証明?として

「氷だけを入れたビーカーと、水を入れたビーカーを電子レンジにかけてみると、氷をつくる水の分子は振動しにくいことがわかる」

といいます。

 つまり、氷は、水が固まっているから振動できにくく、熱くならず溶けないというわけですね。


 短い文字数で簡潔に説明しようとすると、上のようになってしまうのは仕方がないですが、これは、かなり舌足らずです。

 普通に流し読むだけでは、ふうん、と納得してしまうのですが、ある程度知識のある人が読むと、上の説明では分からなくなってしまう可能性があります。


 というわけで、もう少し掘り下げて考えてみましょう。


 まず、水分子を考えてみます。

 ご存じのように、水分子は、水素原子Hが2個と、酸素原子0が1個からなっています。下図↓(ipad上、手書きで描いたものなので、乱筆ご容赦)

Photo

 ごらんの通り、Hは+に帯電しており、Oは-に帯電していますので、結果的に水分子は「ひとつの分子の中で、+がかった部分と-がかった部分、に分かれる」ことになります。

 このことは、専門用語を使うと、水分子は電気双極子(あるいは、電気双極子モーメント)を持つ、といいます。


 それなら話は簡単、水に電磁波(マイクロウェーブ)を、外から与えたら、時間的に変動する「電場」(一秒間に24億回+-が入れ替わる)と、電気的に+-の偏りのある水分子(電気双極子)が、直接に相互作用してマサツが発生し、発熱するのだ――と考えると、わからなくなることがあるのです。



 水などの、「電気的な偏りのある物質」に、周期的な電気変化(電気振動)を加えた場合を考えてみます。


 ああ、そうだ、その前に――

 電子レンジの加熱周波数は、日本においては2.45GHz(正確にいうと2.4-2.5GHzの帯域)です。

 コンピュータのwifiに詳しい方や、コードレス電話に興味のある方ならご存じのように、それらの無線機器も、電子レンジのマイクロウェーブと同じ2.45GHzです

 ですから、パソコンのwifiは、よく電子レンジによって妨害を受けてしまうと言われるのです。

 なぜ、電子レンジの周波数と家庭用無線通信の周波数が同じかというと、まあ、偶然ではあるのですが、それだけではありません。

 電波の周波数は、国の財産として、かなり厳密に割り当てが決まれています。
 ですから、違法な周波数で通信をしたりすると、かなり厳しく罰せられるのです。
 わたしも、三十年ほど前にアマ無線の資格を取るときに、どの周波数帯が何に割り当てられているかを覚えさせられたものです。

 この2.45GHz(正確には2.4-2.5GHz)という周波数帯は、ISM(Industrial Scientific Medical)バンドと呼び、産業科学医療用に割り当てられた周波数で色々な目的で利用されているのです。
参考サイト↓
http://www.akg.t.u-tokyo.ac.jp/~asami/s-cross/musenlan.html#anchor7...
http://www.hndtc.co.jp/p090/p090_207_rf.html
 


 それでは、分子の電気振動の話にもどります。

 水分子の分子内振動は、OH伸縮振動、逆対象伸縮振動、変角振動などがあります。

 しかし、いずれの振動数も赤外線の周波数に近く、マイクロ波よりは3~4桁ほど高いのです。

 つまり、理系がよくいうところの、「オーダー(桁)が違う」のですね。

 水素結合を介した分子間振動は、THz領域にありますが、それでもマイクロ波より2桁高い周波数です。

 ですから、電子レンジで使われている電磁波が、水分子の「分子内振動」や「分子間振動」に直接エネルギーを与えることはありません。

 「ちょうど適切な周波数」でないと影響を与えられない、ということです。

 周波数に関して言えば、「高ければ高いほど効果がある」ということはないのです。


 液体中では、水分子はお互いに「水素結合」しています。
 (水素結合http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E7%B4%A0%E7%B5%90%E5%90%88

 水素結合は、「10のマイナス12乗秒程度の短い時間」で、つながったり切れたりしていますが、それぞれの水分子は、それなりにゆるく隣とつながっているので、そうそう自由に「回転し」たり「振動」したりはできません。

 ここでいう「回転」は、分子全体がクルリと回る運動で、「振動」は分子全体がある場所を中心にして行ったり来たりするような運動なので、「分子内振動」とは別のものです。

 この場合、分子はお互いに、押しくらまんじゅうをしながら、微妙に場所を移り変わる、というイメージです。
 
 さて、この分子に電場をかけてみます。

 まず、時間的に変化しない「静電場(Eと表記)」をかけると、水分子は、その電場Eを打ち消す方向に動きながらずれます。

 水分子は、片方がプラス、もう一方がマイナスの電荷を持っているので、本来なら、Eを打ち消すように正負の電荷が動けばよいのですが、液体であるために分子自体が動き回って、きれいに整列できません。

 結局、数多くの水分子が、動き回りながら、「Eを打ち消す方向を向く確率が増える」だけなのです。


 その結果、水の中に、電気分極(Pと表記します)があらわれます。

 電気分極Pは、「多数の水分子が共同」して生みだしているものですから、個々の水分子が揺らげば、大きさや方向が変わります。
 


 では、次に「時間的に変化する電場」をかけたらどうなるでしょう。

 電場の変化がゆっくりで、分子群の動きに比べて「ずっと遅」ければ、Pを作っている分子群の動きは、電場の変化に「完全についていく」ことができます。

 このとき、分極Pも「電場の変化に全く遅れずについて」いきます。

 このように、電場の変化に分極が遅れない場合、熱は発生しません。

 
 電場の変化が、分子達の動きに比べて「ずっと速」ければ、分子群は電場の動きに「全くついていくことができません」。

 この場合も、Pは「電場の変化によって変わらない」ので、熱は発生しません。

 

 ほどよい速度で電場が変動する場合(これがマイクロ波に相当します)のみ、電場の変動に「少し遅れ」て分子がついていくことができます。

 このとき、外部の電場Eに対して「Pが遅れる」ことになり、遅れた分だけ「エネルギーの散逸」が起きて、それが最終的には熱になるのです。


 「外から加えた力」に対して、「変化が遅れる」ということは、なにがしかの抵抗力が働いているも考えられます。

 「分子摩擦」というのは、このへんから出てきた考え方なのでしょう。



 マイクロ波の周期程度の時間では、個々の水分子の全体の運動は、「振動ではなく」て、並進運動と回転運動をしているだけで、どちらの運動も拡散的です。



 かたや分子群が作る「分極P」は、マイクロ波では、外部からの電場変化に対して「遅れてついて行きます」。←これが重要!


 要するに、マイクロ波の電場は振動しているので、Pは強制的に振動させられることになるのです。

 ここで注意しなければいけないことは、分極Pが振動しようとすることと、個々の水分子が振動しようとすることは、別物だということです。

 分子の「位置のずれ」や「方向の変化」によって、Pが生まれるので、Pが振動しても分子が振動しているとは限らないのです。

 マイクロ波の電場と相互作用する『直接の相手』は、『水分子が集団で作る分極P』であり、個々の水分子ではないのです。


 あるいは、Pとの相互作用を通して、(結果的に)個々の水分子が影響を受ける、と考えた方が理解しやすいかもしれません。



 これまで、一般になされた説明のように、「分子を揺さぶる」とか、「分子摩擦で熱が発生する」といった書き方をしてしまうと、分子が揺さぶられた時点で、温度が上がってしまうのでは?と考えたくなります。

 確かに、「分子の運動が激しくなった時点で温度が高くなる」と考えるのは正しい事です。

 しかし、さらに細かく時間的変化を追っていくと、与えられたエネルギーが散逸(外部に放出されていく)のにも、ある程度の時間がかかることがわかります。

 例えば、はじめに書いた(分子を直接振動させる周波数の)「赤外線」を使って、個々の水分子の「分子内振動」を与えた(励起した)場合を考えてみます。

 この場合、振動の量子準位が、まず瞬間的に上がります(上がったものの割合が増えるということです)が、そのときは、まだ「分子全体」の動きや回転運動に変化はありません。

 赤外線から、エネルギーを受け取った分子が、もとのエネルギーレベルに戻る時に放出するエネルギーによって、分子が回転したり、振動したりして、それが熱エネルギーとなるわけです。

 これが、赤外線によって、ひとつひとつの分子に、エネルギーを与えた場合の温度上昇メカニズムです。


 しかしながら、実際のマイクロ波の領域では、分極Pを作るような水分子の運動は、上のような分かりやすいエネルギーの移り変わりをしているわけではありません。

 分極Pの「変化の遅れ」を通して、エネルギーのバラマキが起きているとして――

 エネルギーを受け取る(励起状態)
→放出して元に戻る(基底状態)
→そのエネルギーを様々な場所にバラマク(エネルギー散逸)
→分子の振動や回転になる(エネルギーの分配)

というエネルギー伝播(でんぱ)の順番を考えようにも、励起して(受け取って)すぐに散逸(放出)のようなことになっていそうで、各段階を区別して考えるのは難しくなります。

ある程度、物理の知識を知っている人が、巷間伝えられている「分子摩擦説」に違和感を覚えるのは、そういった理由です。

ああ、最後になって走ってしまいましたが、ご理解いただけたでしょうか?



 ああ、そうだ。

  最後に、氷が直接電子レンジで加熱できない理由ですが、

 『氷の結晶構造』をとって動きにくくなった水分子群にとって、2.45 GHzで変化する電場は「速すぎる」のです。


 ですから、もっと低い周波数の電磁波、つまりゆっくりとした電場の変動であれば、氷を加熱することができます。

 ただし、加熱して0℃になり、氷が融けて水になると、今度は、氷用の電磁波は水にとっては遅すぎるので、氷解凍用電磁波でいくらがんばっても0℃以上には加熱できなくなってしまいますが。

|

« 200年後にはあなたもわたしも彼も彼女もアイツもいない | トップページ | 国によって、景色の基調となる色は違う―のか »

森羅万象気になること」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/159899/55257949

この記事へのトラックバック一覧です: 電子レンジでモノが暖まる不思議 :

« 200年後にはあなたもわたしも彼も彼女もアイツもいない | トップページ | 国によって、景色の基調となる色は違う―のか »