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2012年7月 9日 (月)

夏といえば、アレの夏ですねぇ、やっぱり

 今日、手元に届いた岩波カラー新書、大久保純一著「北斎」の話をしようと思いましたが、新聞に面白い記事が載っていたため、先にそれを紹介して、「北斎」は明日以降にまわします。


 もうすぐ夏が来ますね。

 夏と言えば……



 時代物を書いていると、夏の風物詩として、「蚊遣りの煙(かやりのけむり)」というものを登場させることがあります。

 蚊遣りの煙ごしに、庭の先を見ると、剪定された松の手前に――なんてね。

 ここで、注意が必要なのは、蚊遣りというのは、「蚊取り線香ではない」ということです。

 江戸時代に、「ホンモノ」の蚊取り線香など存在しなかった。


 もともと、蚊遣りとは、よく煙と匂いの出る「蚊遣り木(かやりぎ)」、あるいは比較的匂いの強い香に火を付けて、その煙で蚊を追い払う(殺すのではなく)ものです。

 「蚊遣り火の 悔ゆる心もつきぬべく」などと拾遺(しゅうい)和歌集にも見受けられますね。


 しかし、皆さんご存じのように、現在の蚊取り線香は、「蚊を畳の上に落とす」ものです。

 少し以前まで、インドへ旅行された方なら(特に、それが貧乏旅行なら)、インドで売られている蚊取り線香は、蚊は死なず寄ってこないだけ、なのをご存じなはずです。

 つまり、インドの蚊取り線香は「蚊遣りの煙」なのですね。

 だから、暑気やそれに続く雨期にインドへ行くなら、マラリア予防のためにも「日本の蚊取り線香を持っていけ」と言われます。

 インドのじゃ駄目だ、と。

 わたしも、インドへはザック一個の荷物で出かけましたが、その中には、かなり多めの蚊取り線香をいれていました。


 日本とは、太陽の色も、空気の匂いも、まるで違う異国にあって、蚊取り線香を焚いて目をつぶっている間だけは、石造りの安宿の部屋が日本のように思えて安心できたものです。


 さて、ここで、本題に戻りましょう。


 夏といえば?

 「~金鳥の夏ですね~」

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 若い人はご存じないでしょうが、美空ひばりがウチワをもって、夜空の花火を観ながら呟くCMは、高峰美枝子のフルムーン同様、わたしにとってはトラウマです(こらこら~)。

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 キンチョウを製造・販売する大日本除虫菊(キンチョウ)は大阪の会社です。

 創業者の上山英一郎(1862~1943)は、和歌山の出身で、慶応大学で、あの福沢諭吉の教えを受けました。

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 どうも、諭吉という人は、人の精神に低温火傷をさせる天才のようで、上山氏も「日本を豊かにする」「農家を豊かにする」のだ、と一念発起、諭吉から紹介されたアメリカ人から、ノミ取り粉(って、知ってますよね?いや、わたしも話でしか知りません)の原料として使われていた除虫菊の種子を手に入れました。

 荒れ地でも栽培できる除虫菊は、貧しい農家の救済になる。

 うまく栽培すれば、世界に通用する輸出品にもなる、と考えた上山氏は、全国で
除虫菊の栽培を奨励し――50年後には、なんと除虫菊世界総生産量の9割を日本が占めるようになったのです。

 ノミ取り粉の材料としてだけでは、世界に通用しないと考えた彼は、除虫菊を利用する製品の開発にも取り組み、1890年(明治23年)、除虫菊の粉末を線香に練り込んだ『世界初』の棒状蚊取り線香を発明します。

 さらに1902年には、妻ゆきの助言によって、長時間使える「渦巻き型」の蚊取り線香を発売するのです。

 これぞ、単なる「蚊遣り」ではなく、我々の知っている、ホンモノの蚊取り線香です。

 しかし、蚊取り線香が、もともとノミ殺し用の生薬だったとは驚きです。

 大日本除虫菊の蚊取り線香は、東南アジア、オーストラリア、アフリカ、南米など、世界を席巻(せっけん)します。

 えーと、だいにほん……なに?

 そう、我々の知っているのは、キンチョウですね。

 金色の鶏がトレードマークの。


 渦巻き型蚊取りを発明して10年後、上山栄一郎は、彼の信条であった、

「ムシロ鶏口ト為ルモ牛後ト為コト勿レ」(史記より)

 つまり、いわゆる鶏口牛後(けいこうぎゅうご)、


「強大なもの(牛)の最後尾であるくらいなら、小さく弱い者(鶏)の頭であれ」

「大きな業界の後をいく会社ではなく、小さな業界でもトップとなれ」

という気概をこめて、金色の鶏マークを商標登録し、それがつまり、我々に馴染み深い金鳥になったのです。

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