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2012年7月15日 (日)

バイエルと地上 ~生前の栄華と死後の栄誉~

 バイエルをご存じですか?

 ああ、あのソーセージの?

 いや、それは、バイエルン、伊藤ハムのアルト・バイエルンでしょう。
 その場合のバイエルンは、ドイツのバイエルン州をさします。

 もちろん、わたしのいったバイエルは「あの」ピアノ教則本の「バイエル」、そして、それを生みだしたフェルディナント・バイエルのことです。

 安田寛著 「バイエルの謎 日本文化になったピアノ教則本」(音楽之友社)によると――

 ピアノを習った人の大半が知っている著名なバイエル。

 しかし、バイエルが人名(フェルディナント・バイエル)で、19世紀に生きた(1806~63)人物であることはあまり知られていないそうです。

 バイエルは、作品の他は生没年しか伝えられておらず、架空説まであった人物なのですね。

 近代音楽史を専攻する著者が、5年がかりで欧米各地を調査し、その経緯と結果が「ルポルタージュ仕立て」でつづられるのが、「バイエルの謎」なのです。


 調査によって徐々に解き明かされる謎。

 著者は、最終的に戸籍原本や洗礼記録を発掘し、経歴および家族構成にいたるまで突き止めます。

 バイエルの通説の生年が間違っており「三歳若かった」ことを突き止めた作者は、その瞬間「世界中で私だけがバイエルの正しい誕生年月日を知っている」と身を震わせるのです。

 多少、大げさではありますが、この感動は確かに真実であったことでしょう。

 バイエルといえば、近年、批判も多くなされる音楽家です。

 彼が生前為したとされる、各国の愛国歌をピアノ・アレンジになおした60曲以上の「愛国歌」は、そのほとんどが失われ、生きている間は経済的に成功を収めた「富める音楽家」であったものの、死して後、彼の音楽家としての評価は決して高いものではなかったようです。

 彼の「ピアノ教則本」は、1881年(明治13年)にアメリカ人「ルーサー・ホワイティング・メーソン」によって日本に紹介され、それ以後、日本での決定的な地位を保ち続けていますが、日本と韓国以外では、世界的に見てあまり普及していないとの見方もあります。

 
 教則本のみが極東で有名である、という不思議な音楽家バイエルは、上記のとおり、その死後、作品が評価されなくなってしまった不運の音楽家です。

 それは、偶然か運命か実力か、彼の作品が時間という無慈悲な批評家の目にかなわなかったということです。


 かつて、一世を風靡(ふうび)しながら今では忘れ去れているものの例として、わたしはいつも島田清次郎の「大地」を思い出します。
 
 もっとも、わたしの知識は、コミック「栄光なき天才たち」によるものなので、正確さに関してはあまり自信はないのですが。



 世の中には様々なオルタナティブ(二者択一)がありますが――

 芸術作品に携わる人々にとっては、どちらの方が幸せなのでしょう。

 モディリアニやゴッホのように生前はまったく顧みられなかったものの、死後に見いだされ、末永くその名を後世にとどろかすのと……

 バイエルのように、生前は成功した音楽家として経済的にも恵まれながら、死後にその作品が散逸し評価されなくなるのと……

 願わくば生前に成功し、死後に至るまで末永く評価され続けんことを――

 まあ、ほとんどの芸術家にとって、それは夢物語なのでしょうが。

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