« 「読み聞かせ」その姿勢と技術と重要性 | トップページ | あの宗教集団が教えてくれたこと ~高橋容疑者逮捕~ »

2012年6月23日 (土)

ステマでなくステマネ

 若い頃は、「クラシックぐらい聴かねばナラヌ」と勢いこんでLP(古いねぇ!)を買いあさり、コンサートに出かけたこともありました。

 もちろん、それは音楽本来の楽しみ方ではありません。

 なんとなく聴いて、いつか心に染みこんで、イイ曲じゃないの!と長く静かに好きでありつづける、そんな関係が古典曲にはふさわしい気がします。


 冷たく残酷な批評家である「長い時間」を乗り越えてきたクラシック音楽は、現代の曲の多くがそうであるように「使い捨て」な曲ではないからです。


 大学時代に、クラシック好きな友人と知りあえたのも幸運でした。
 向こうは向こうで、クラシックとは無縁の理系学校で、やっと誘ってついてきてくれる奇特なヤツを見つけた、と喜んでいたのかもしれませんが――

 野外コンサートについてはよく知らないのですが、劇場内で行われる
クラシックコンサートについていえば、コンサート開始前の独特の緊張感が好きでした。

 ジャズなどのコンサートとは、少し感じが違うのですね。

 ただ、一度だけ、独特の緊張感を感じたジャズ・コンサートがありました。

 これも友人に誘われてでかけた……いや、おそらく彼は女性を誘おうとして、何らかの事情があって彼女が来られなかったのでしょう、当日、大学の構内で誘われ、急遽(きゅうきょ)行くことになったコンサートでした。

 サラ・ヴォーン・ラストコンサート。

 確か、日本で最後の公演であったはずです。

 こののち、まもなく世を去ることになった彼女の歌声は、おそらく聴きに来ている多くの人々が、彼女の重篤(じゅうとく)な病気を知っていただけに、独特の響きをもって、わたしたちの耳に届いたのでしょう。

 楽しいて、やがて悲しき……という印象でした。


 また、横道にそれました。

 クラシック・コンサートの話です。

 コンサートの、開演前の緊張感が好きだという話でした。

 その開始前の緊張感の中、だれもいないステージ上を、タクシードやブラックスーツ姿で歩き回っては、置かれた楽器や譜台を触っていく人物(かつては男性ばかりでしたが、今は女性も多いのかもしれません)がいました。

 別に怪しいヒトではなく、彼は「ステージ・マネージャー」という関係者なのです。

 略称はステマ――なら近頃話題であったステルス・マーケティングの略なのでしょうが、一般的には「ステマネ」と略されることの多い、オーケストラの音楽家がベストの状態で演奏できるよう、現場を仕切る責任者です。

 当然ですが、オーケストラの楽団員および楽器の配置は、毎回同じではない(曲や指揮者の考えでコロコロ変わる)ため、演奏会の三週間前には、一曲ずつ舞台配置を考えなければなりません。

 わざわざ配置図を図を作る人もいるようです。

 基本形は第一ヴァイオリン(コンサート・マスター:通称コンマス)の横に第二ヴァイオリンのグループが並びますが、なかには、第一ヴァイオリンの真向かいに第二ヴァイオリングループが並ぶこともある。

 コントラバスの配置には、特に指揮者のこだわりがでるともいいます。

 そういった、様々な指揮者のデータを集めるのもステマネの仕事の一部です。

 指揮台の高さも人によってまちまちで、場合によっては台自体を嫌いな指揮者もいて、その好みに合わせるのも大変なようです。

 もちろん、数十もある楽団員の椅子の高さや譜面台の傾き加減の調節も、気持ちよく演奏してもらうためには大切な要素です。


 まこと、ステマネは「記憶力」と「気配り」の両方が必要な大変な仕事です。


 日本のコンサートは、だいたい午後七時頃から始まるとして、午前十時には練習場で楽器を積み込んで、午後一時には会場に到着し、三時半からのゲネプロ(本番直前のリハーサル)が始まると、客席で音をチェックし――

 午後六時からの客の入場時には、電車の遅れなどを調べて、開演時間を遅らせたりもするのです。


 やがて、開演時間になり――

 「トイトイトイ!」とはドイツ語の「うまくいくように」という「おまじない」らしいですが、それを指揮者の背中にかけて送り出すと、ステマネの仕事はほぼ終わりに近付きます。

 あとは、コンサートが終了し、ブラボーとアンコールの言葉を聴けば、彼の長い一日は終わりを迎えることになるのです。

 そして、おそらくその瞬間、彼はこう思っているのでしょう。


「ショウほど素敵なビジネスはない(大変だけど)」、と。

|

« 「読み聞かせ」その姿勢と技術と重要性 | トップページ | あの宗教集団が教えてくれたこと ~高橋容疑者逮捕~ »

森羅万象気になること」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/159899/55032460

この記事へのトラックバック一覧です: ステマでなくステマネ :

« 「読み聞かせ」その姿勢と技術と重要性 | トップページ | あの宗教集団が教えてくれたこと ~高橋容疑者逮捕~ »