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2012年5月29日 (火)

太く長い線の人生 ~吉田秀和死す~

 音楽評論家の吉田秀和氏がなくなりました。

 御年98歳。

 氏については、以前に「鎌倉行」で書いたことがあります。

 ピアニストの中村紘子に英才教育をほどこした、などの様々な逸話が彼にはあります。

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 興味深い話は、そちらを読んでいただくとして、今、書いておきたいのは、彼の晩節が、決して「お余りの人生」ではなかった、ということです。



 以前に、このブログでも書きましたが、吉田秀和氏は、年をとってから美しい女性と結婚しました。

 ドイツ人女性のバルバラ・クロフトです。


 そして、後に彼は、長命である者の「負の面の辛酸」をなめることになります。

 骨盤に転移した癌によって、2004年にバルバラ・クロフトに先立たれるのです(享年76歳)。

 この時秀和90歳。

 彼女の死で「身体の半分がなくなった」ように感じた彼は、筆を折ってしまいます。


 しかし、何年かが経って、彼は、音楽についての執筆を再開します。

 その理由については、以前のブログに書きました。


 そして、それ以降、表だった行動はなかったものの、中断することなく精力的に仕事を続け、去る22日に亡くなったのです。

 おそらく彼は、死後にバルバラ・クロフトに褒めてもらいたかったのでしょう。

 世俗的な要望に応えたり、あるいは自己のプライドのためだけの仕事ならば、一度折った筆を再びとる必要もなかったはずですから。

 前回わたしは、氏の人生について、

 人の人生は、漫画家の描く線に似ている。
 細く入り太く描き細く払う。
 その長さには長短があり、太さにも差がある。
 吉田秀和の人生は、太く入り、太く走って、太く払われる一本の線なのだろう。
 ひとことで言えば、太い人生を歩んできた男だ。

と書きました。

 人の人生は「棺覆って定まる」ものです。

 ならば、吉田氏の人生は、まさしく今、定まったわけです。

 彼の人生は、一度は、さっと払った筆のように細く消えていくところでした。

 しかし、死後、胸をはってバルバラ・クロフトに会うために、彼は最後に太く長い線の人生を取り戻したのだと、わたしは思うのです。

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