あいつは最後までマンガって奴と関わっていたかったんだ
その人は、不思議の国のアリスが好きだった。
早くから、フランケンシュタイン(の創造になる怪物)を、無垢な魂を持つ、外見上の怪物として取り上げた。
人の性格の多面性を、善と悪の混在する「二重人格」という型に落とし込んで、多くの傑作を生み出した。
父と子の触れあいを、理想化された牧歌的情景の中で優しく描いた。
同様に、熊を擬人化した「森の生活」物語で、人間関係の綾を見せてくれた。
悪行を「悪」として斬り捨てるのではなく、それを自覚しながら堂々と「悪」を行うことを肯定し、その上で、悪行に対する「怒り」を持って、主人公に打ち砕かせた。
つまり、その人は、軽々に「正義」を口にしなかった。
その人は、眼球に対して、深い感情(おそらく愛憎半ばする)を持っていた(その気持ちが、いくつかの名作と登場人物?を生み出した)。
その人は、あまりSF作品を描かなかった(わずかに残る作品のひとつに、ドンキホーテを主題にした佳作がある)。
また、その人は、忍者を愛した。
神話世界を愛し、王の王たる王、生まれながらの王についての、確たる信念を持っていた。
その人の主人公の多くは、もともと優しい性格ながら、激しく(人と人生そのものに)裏切られルが故に復讐を誓い、力をつけ、復讐を果たした後に死にゆく者たちだった。
その人は、少女漫画家だった。
男性だった。
特徴のある髭をはやし、自分のことを「髭クマ」と呼んでいた。
その人はパイプを愛した。喫煙を愛した。
故に、主人公の多くにパイプを与え、くわえ煙草をくゆらさせた。
その人は2011年7月5日に急逝した。まだ若かった。
死ぬまで、作品を書き続けた現役の作家だった。
わたしは、子供のころ、姉のコミックで、彼の作品に触れて以来の、彼の崇拝者で、これからもその気持ちは変わらない。
わたしは、彼の登場人物の真っ直ぐに立つ姿が好きだった(たとえそれが悪行を為す姿であったとしても)。
訃報に接する数日前、どういうわけか「超少女明日香」と「ピグマリオ」「朱雀の紋章」を読み返したくなって、全巻読み終わったばかりだった。
さようなら、和田慎二氏。
わたしは、剛柔併せ持つ、あなたの作品が好きだった。
世間的には「スケバン刑事」のみがクローズアップされた感があるが、それだけで終わる作家ではなかった。
特に、「朱雀の紋章」は、月刊誌掲載時に読んで決定的な影響を受けた作品で、今でも、かならず、映像化されねばならない名作だと確信しています。
最後に、氏が、ドン・キホーテをモチーフにして描いた佳作。
老月面基地司令官が、ヒロインを守って、基地に激突する巨大水晶に向かって体当たりをする「騎士よ!」から、エピローグのヒロインの独白を……
あたしは信じない。あの人たちはきっと生きている。だれよりも強いあなたたちが死ぬはずはないもの。
はてしない遍歴の旅の第一歩を踏み出した証を私に見せるため
てはじめに、竜を一匹退治してくださったのでしょう?
いま、はるかに宇宙を翔けているのでしょう?
ドン・キホーテ……わが最愛の騎士よ……
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