あれ、子供の頃に読んだのに…… はなさかじい
先日、姉と話をしていて、何がきっかけだったか「はなさかじい」が話題になりました。
「むかし むかし うらしまは」ではなくて「うーらのはたけーでポチがなく〜」の、あの石原和三郎作詞・田村虎蔵作曲の童謡のもととなった話です。
有名だから誰でも知ってる、と思っていたら、
彼女に「どんな話だったか覚えているか?」と問われ、すぐに答えることができませんでした。
「確か、飼い犬ポチが『ここ掘れワンワン』と示した場所を掘ったら、お宝が出て、となりのイジワルじいさんが犬を借りて掘らせたらゴミが出た、だったかな」
と、わたしがいうと、
「ところが、ホンモノはもっと長いのよ。ポチじゃないし……」と教えてくれたのが、以下の話でした。
(詳細は、ポプラ社の「はなさかじい」文・吉沢和夫、絵・桜井誠に依るものです)
(詳細は、ポプラ社の「はなさかじい」文・吉沢和夫、絵・桜井誠に依るものです)
ワンスアポンナタイム、昔むかし、あるところに、子どものいない、じさまとばさまがおりました。
ある時、二人は、町へ子どもをもらいに行くことにしました。
町へ向かう途中、松の木の根元に、白くて可愛い子犬がいて、二人に「どこへ行くのですか」と話しかけてきます。
「子供をもらいに行くのだ」という二人に、「それなら自分を子どもにしてほしい」と頼む子犬。
じさまは「町に良い子どもがいなければ子どもにしてやろう」と約束しました。
結局、町では良い子が見つからず、ふたりは、帰りに同じ場所で待っていたいた白い子犬を子どもにしました。
子犬は、茶碗一杯で一杯分、二杯食べると二杯分と、どんどん大きくなりました。
ある日のこと、犬はじさまに頼んで自分の背中に鞍をつけさせ、無理矢理じさまを背中に乗せて山道を登って行きました。
じいさまは、犬が示した所を掘ってみてビックリ!! 大判小判がザックザク出てきたからです。
じさまは、宝を籠一杯に詰めて、ふたたび犬にまたがって戻って来ました。
この話を聞いた、隣のじさまとばさま。
犬を借りて、自分たちも宝物を掘り出そうと考えました。
欲張りじさまは、うんとでっかい鞍に、大きな籠をつけて、犬の背中にどったりとまたがり山道を登って行きました。
「ここらでどうだ?」と犬の背中から飛び降りた隣りのじさまは、そこら一面、堀り散らかします。
すると、蛇やら蛙、カマキリやら、ロクでもないものばかりが這い出てきました。
怒ったじさまは 犬をクワで叩き殺し、死んだ犬を引きずって、かわやの隅に投げ捨ててしまいました。
犬を貸した方のじさまとばさまは、死んだ犬を畑の片隅に埋めてやり、その上に松の木を一本植えました。
ふたりが松の木に毎朝・毎晩水をやると、木はスクスクと伸びて、大きな太い松の木になりました。
ある日のこと、きれいな鳥が松の木に止まり「じさま じさま、この木を切って臼にしろ」と不思議な声で鳴きました。
声に従い、じさまは臼を作り、ばさまと米をつき始めました。
すると、ポンとつくとポン、ポポンのポンとつくとポポンのポンと宝物が出て来ます。
このことを聞いた、隣りのじさまとばさまも臼を借り、両側から米をつき始めました。
すると、牛のくそやら馬のくそやらが、べったりどったりと飛び出して、そこら中、くそだらけになってしまいました。
怒ったじさまとばさまは、臼を叩き割って燃やし、灰をかわやの隅に捨ててしまいました。
臼を貸した、じさまとばさまは、灰を大事に抱えて帰り、裏の畑に撒きました。
ある日、じさまが畑に灰を撒いていると風がふき、手のひらから灰を吹き飛ばしてしまいました。
ところが、不思議なことに風が吹いて、灰が振りかかる度に、枯れ木が芽を出し、つぼみになり、ぱっと花が咲いたのです。
しばらく後、この村を殿様が通るというので、じさまは灰を抱えて枯れ木に登り 殿様を待ちました。
じさまは、殿様の前で「枯れ木に花を咲かせる、日本一の灰撒きじじい」と、枯れ木に花を咲かせて見せ、喜んだ殿様からどっさりご褒美を貰って家に帰って来ました。
この事を聞いた隣りのじさまとばさまは、残った灰をもらって殿様を待ちました。
そして、同じ様に灰を撒きましたが、花は咲かず、殿様や家来の目に灰が入り、自分の目にも灰が入って、とうとうじさまの目は見えなくなって、木から落ちてしまいました。
なんだか、長いじゃないですか。
とても、「まんが日本昔話」の一話分、15分枠には収まらない感じですね。
だいたい、いくら昔の犬が狼との混血が多く山犬がかっていたとはいえ、鞍をつけておじいさんを乗せ、山を登るってのは無茶苦茶です(もののけヒメかって!)。
まあ、いきなり犬が話しかける、という点で、すでに寓話なのですから、そのつもりで読まないといけないのでしょうけど。
脇役たる欲ボケじいさんばあさんたちが、ちょっと気にいらないというだけで、平気で主役級の犬を殺してしまうのも神話的。
このあたり、古代の、荒ぶる神に似ているなぁ。
「気に入らないから、すぐに殺す」と聞くと、わたしは、日本神話におけるスサノオとオホケツヒメの話を思い出してしまいます。
神の国を追い出されたスサノオが、英雄としての旅に出る前に「腹が減った」とノタマった時、女神オホケツヒメが、鼻や口やお尻から食べ物を出し、料理ようとするのを見て、「なんと汚いことをするのだッ」と斬り捨てしまうという、あれですね。
わたしは、こういったアニミズム的ニオイのする神話が結構、好きなのです。
食べ物の神であったオホケツヒメの亡骸(なきがら)の頭から蚕(かいこ)が生まれ、目からは稲種が、耳からは粟(あわ)が、鼻からは小豆(あずき)が、陰部から麦、お尻から大豆が生えてきて、日本の地に穀物が伝播(でんぱ)したのでした、なんてね。
プロメテ(ウス)は、神の火をヒトにもたらした咎(とが)で、カウカソスの山頂で、生きながらにして、毎日ハゲタカに肝臓をついばまれる刑を科せられましたが、スサノオは、罪にも問われず(もちろんそれが穀物伝播の擬人化だからですが)、ただ征き行きて、流れた先で、贄(にえ)の少女クシナダヒメと出会うと、無理矢理、彼女を自分のものにして櫛(くし)にかえ、髪に挿し(彼女が逃げないように、だ!)、伝説の怪物ヤマタノオロチを退治する。
奸計(かんけい)を用い、酒を飲ませて酔っぱらった怪物をメッタヤタラと切り刻むうちに、尻尾から出てきたのが、あの三種の神器(じんぎ)のひとつ草薙の劔でありました――なんて、なんでわたしは日本神話の話をしているのでしょう?
とまれ、民俗学的にいえば、「はなさかじい」もさまざまな解釈が可能です。
印象でいわせてもらえば、最後の勧善懲悪的な部分は、あとでつけられた感じがしますしね。
いや、もっとはっきりいうと、子供の頃には気がつきませんでしたが、今は「ショージキじいさん」の小利口さ、スマートぶりが少々以上に鼻につきます。
「なんだ、隣のじいさんって、真っ正直で愚直で気が回らないだけジャン」ってな気がしてしまいます。挙げ句、カンシャクを起こして、本来、おだてて使えば役に立つかもしれない犬を殺してしまう……
それにひきかえ、正直じいさんはスマートだなぁ。頭が良い(ホメてないですよ)。
だって、枯れ木に花を咲かせる灰を手に入れて自分だけで喜んでいるならともかく、それを使って、お殿様に取り入ろうだなんて、ホント、如才なさすぎって感じがしませんか?
「舌切りすずめ」や「おむすびころりん」よりは長い話だからか、わたしの周りで尋ねても「はなさかじい」を正確に記憶している者は、ほとんどいませんでした。
あるいは、あの童謡が、はしょり過ぎているから正しい話が伝わっていないのでしょうか?
いずれ、時代にも合わないから、こんな昔話を知っている子供も、少なくなっていくことでしょうね。
個人的に、子供は「モチモチの木」と「100万回生きたねこ」、「みどりのゆび(モーリス・ドリュオン)」「猫吉親方 またの名 長ぐつをはいた猫(シャルル・ペロー)」を知っていれば充分だと思います。
あと、もう少し大きくなれば、英国の児童文学、例えば、ジョージ・マクドナルド『北風のうしろの国』フランシス・ホジソン・バーネット『秘密の花園』、P・L・トラヴァース『風に乗ってきたメアリー・ポピンズ』、J・R・R・トールキン『ホビットの冒険』(指輪よりこっちがオススメ)などを読めばいいかな。
英文学以外なら、リンドグレーンの「名探偵カッレくん」(長靴下のピッピではなく)や、ミヒャエル・エンデのデビュー作「ジムボタンの機関車大冒険」(果てしなき〜でもモモでもなく)かな。
いや、それより先に少し大きな書店ならまずペイパーバックが置いてあるロバート・A・ハインラインの「夏への扉」を読むべきか。
うん、そうだ。そっちがいい。
最後に、石原和三郎作詞・田村虎蔵作曲の童謡「はなさかじじい」を挙げておきます。
うらのはたけで、ぽちがなく、
しょうじきじいさん、ほったれば、
おおばん、こばんが、ザクザクザクザク。
いじわるじいさん、ぽちかりて、
うらのはたけを、ほったれば、
かわらや、かいがら、ガラガラガラガラ。
うらのはたけを、ほったれば、
かわらや、かいがら、ガラガラガラガラ。
しょうじきじいさん、うすほって、
それで、もちを、ついたれば、
またぞろこばんが、ザクザクザクザク。
それで、もちを、ついたれば、
またぞろこばんが、ザクザクザクザク。
いじわるじいさん、うすかりて、
それで、もちを、ついたれば、
またぞろ、かいがら、ガラガラガラガラ。
それで、もちを、ついたれば、
またぞろ、かいがら、ガラガラガラガラ。
しょうじきじいさん、はいまけば、
はなはさいた、かれえだに、
ほうびはたくさん、おくらに一ぱい。
はなはさいた、かれえだに、
ほうびはたくさん、おくらに一ぱい。
いじわるじいさん、はいまけば、
とのさまのめに、それがいり、
とうとうろうやに、つながれました。
とのさまのめに、それがいり、
とうとうろうやに、つながれました。
今、気がつきましたが、「正直じいさん」と対になっているのは、「ウソつきじいさん」じゃなくて「イジワルじいさん」なんですねぇ。
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