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2009年11月 6日 (金)

ツーハンは思わぬプレゼント 〜「火の鳥」「ブッダ」〜

 かつて、敬愛する東海林さだお氏が、そのエッセイの中で「ツーハンは自分に対するプレゼントである」と宣言されたことがあります。

 もちろん、ここでいうツーハンとは、「もう!ツーハンお見限り。どこかヨソに良い子ができたんじゃないのォ」のツーハンではなく、通信販売のツーハンのことです(東海林氏談)。


 わたしも、コンピュータの周辺機器購入などでは、よくツーハンを利用します。

 さすがに、格安マザーやバルク品のHDやメモリ、コンデンサやトランジスタなどの細かい電子部品は電気街に足を運んで買いますが、おおまかな相場の決まっているものは、ツーハンがベンリです。

 なぜ、ツーハンが自分に対するプレゼントなのかというと、まあ、皆さんおわかりでしょう。

 ネットなどで注文をしておいて、あとは忙しさにかまけて、そのことを失念した頃に、ピンポンの音、はっとツーハンを思い出して、いそいそと認印をもって玄関に出て行くその瞬間こそは、まるで誰かにプレゼントしてもらった気分、というわけですね。

 最近は、前日、午後3時頃までに注文すると、「24時間以内に発送」で、翌日の昼過ぎに商品が届くので忘れる暇もないのですが。

 同時に、東海林氏は、ゲンブツを見ないで購入するツーハンの危険性として、いくつか失敗談を披露されています。

 カッコイイ!と思って買ったロシア製の腕時計が、実際に届いてみると、腕どころか、腹に巻く腹時計クラスの巨大さだったため、よろめきながら過去にいくつかあった失敗商品の眠る押し入れに運び入れるのだった、とかね。

 昔は、そういった「ヤバイツーハンモノ」は、雑誌の裏表紙などに掲載されていました。

 今も、友人が好んで話をするのは、動物の雄雌(しゆう:つまりオスメス)を見分ける「大仏の首」(仏像の首だったか?)です。


 わたしが欲しかったのは、ロケット型ラジオでした。

 後年、大人になってから「腕時計型ラジオ」というのを買いましたが、実際に届くと、これがまたデカかった。

 今思えば、それは初代X-BOXを「エエデザインじゃないの」と思って見に行った店頭で、あのデカサを見せられた時の衝撃に勝るとも劣らぬものだったなぁ。


 いやいや、長々と今まで書いて申し訳ありませんが、今回はツーハンの話をするつもりはありません。


 今、スカイパーフェクトで「ソウ」一挙放映をやっています。

 ソウ1は、以前に録画してDVD化してあったような気がしたので、あまり観る気も無かったのですが、現在「ソウ6」が劇場公開中で、それほどまでに根強い人気の秘密は何かと確認したくなって、2〜4を録画しておこうと思ったのです。


 録画準備に入ってから、もしかしたら1は、MPEG2データで観ただけで、もう消去してしまったかもしれないと思い直し、DVD入りの段ボールが山と積まれた倉庫に入って調べてみました。

 結局、「ソウ1」は見つかりませんでしたが、代わりにいろいろと面白いものが出てきました。

 なかでも驚いたのは、DVDの段ボールに混じって、コミックの段ボールが出てきたことです。

 基本的に、映像と書物(コミック含)は分けて保存しているのですが、なにかの拍子に混じってしまったのでしょう。

 その段ボールには、文庫版「火の鳥」と「ブッダ」と「青春の尻尾」、スキマに「11人いる!」と「修羅雪姫」が入っていました。

 テーマに統一性が、あるんだか皆無なのか、よくわからないパッケージですね。

 「11人いる!」は続編の「東の地平西の永遠」とともに、オリジナル版が書架に並んでいるので、おそらく間違って重複買いしたものでしょう。

 それより、驚いたのは、自分が手塚治虫氏の「火の鳥」を全巻持っていたことです。




「ブッダ」は覚えていたのですが、「火の鳥」は、「復活編」と「未来編」のみを大判で持っていると思っていたため、これまで何度も、書店で手にとって買うかどうか迷ったあげく、踏ん切りがつかずにいたのです。

 忘れたつもりでいて、どこかに記憶の片鱗が残っていたのでしょうか?

 ともかく、いくつかのエピソードを除いて、すっかり内容を忘れていたので、ブッダともども箱の中のコミック全てを一気読みしました。

 そして、これぞ正しく「奇貨」なり。

 「奇貨居くべし」、いやつまり、これらの作品についての覚え書きをブログで書いておこうと思ったのですね。

 わたしにとって、ツーハン以上の「思わぬプレゼント」になったのでした。





 手塚氏の捉える仏教史観の発露「ブッダ」は、ある意味わたしの背骨に入っている思想でもあります。
 あえていえば、シャーリプトラ(舎利子)の姿形が、わたしの考えていたものと少し違っていましたが……

 「ブッダ」の中の重要なエピソードのひとつ、ブッダが鹿に教えを説き、初めて人に説法をしたサルナートは、わたしがインドで体を壊す前日に訪れた地でした。

 宿を出て、英語のほとんど通じない人々とともに、独りバスに乗り込んで、運転手に「サルナート!」と叫ぶと、満員の乗客のほとんどが、「わかった、わかった」と身振りで示し、実際に数十分たってバスが停まると、ほとんど乗客全員が一斉に「ここだ、ここだ」とヒンディで教えてくれました。

 当時、サルナートでは遺跡を発掘中で、大きな(身長3メートルほどでしょうか)極彩色のブッダが、これも大きな弟子たちと車座になっている像が設置されていました。

 たまたま「暑期」と呼ばれる最も暑い時期だったので、太陽の下は焼け付くように高温でしたが、日陰に入ると、湿度の低さもあってかなり過ごしやすく、おそらくブッダも、日中は日陰で涼をとっていたのだろうなぁ、と感銘を受けたことを思い出します。


「火の鳥」については、多くの人に書き尽くされた感があり、今さらわたしの書くことはありません。

 ただ、「復活編」の、損傷した脳を人工タンパク質で修復した主人公が、景色はもとのまま認識しながらも、生物だけを怪物のように知覚するという、理屈にはあっていなくても「体感的」に納得できる設定は、とても凡百なわたしには思いつけるものではないと思いました。いや、今も思っています。

 子供の頃、初めて「復活編」を読んだわたしにとって衝撃的だったのは、主人公が、小川のせせらぎを聴きながら、そのほとりで心を開き、恋人のロボットチヒロとつかの間の逢瀬を楽しんでいた場所が、普通の男(作業員)の目によって、溶鉱炉の鉄が流れる危険な工場内部であることわかった瞬間でした。

 あれは恐ろしかった。

 それ以前の、あからさまに人が岩のカタマリに見えていた時より遙かに恐ろしく、そして哀しい。
 一見、人間に見える主人公が、その精神構造が、すでに人間ではなくなっていることを如実に示した瞬間だったからです。


「青春の尻尾」は、個人的に、なんだか妙に好きな「少年の町ZF(ゼフ)」と同じ小池一夫、平野仁コンビの佳作です。

 ZFは宇宙人による人類消滅モノの一つですが、「〜尻尾」は、天界の桃を食べた諸葛亮孔明の話です。
 例によって、第三エピソードあたりから、小池氏一流の「物語終わらない無限ループ」に入って尻つぼみになるのですが、孔明が桃を食べるエピソードまでは素晴らしかった。

「修羅雪姫」は、映画化もされたと思いますが、小池一夫氏と「同棲時代」の上村一夫氏の明治を修羅に生きる女性のストーリーです。

 無期刑になった女性が、シャバでの恨みをはらすために、看守や説教坊主を片っ端から誘惑して子供を身ごもり、その子に望みを託して死んでいく。やがて成長したその娘は……

 という話は有名だと思いますが、わたしが、今回読み返してみて、改めて感銘をうけたのは、あとがきにある故上村氏が語るエピソードでした。


 プレイボーイ誌で連載が決まったので、顔合わせを兼ねて上村氏は小池氏と夜のバァをハシゴした。
 そのおり、仕事はほったらかしにして酒に酔った上村氏は、最近知ったウォルト・ディズニー・プロのアニメーターが作ったというブルーフィルム(今でいうエロビデオ?)の話をする。
 そこでは白雪姫が七人の侏儒(コビト)によって、性的暴力を受けるのだ。

 それから、2、3日たって、小池氏から届いた新連載の原作は、タイトルを「修羅雪姫」といった。

 上村氏は、「自分は、打ち合わせと称してタダ酒を飲んで、ヨタ話をしていただけなのに、小池氏は、しっかりと次回作の打ち合わせをしていたのだ」と感心する。



 真偽はともかく、ある作品が出来上がる過程を、いやきっかけを示す話として面白いですね。

「11人いる!」については……長くなるのでやめましょう。

 個人的には、この作品からスピンオフしたギャグマンガ「スペース・ストリート」が好みです。

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