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2009年10月19日 (月)

小国寡民の夢 〜幸福王国ブータンの智恵〜

 昨日、毎年の恒例行事になっている、近くの大学の学園祭に行ってきました。

 特別ステージがしつらえられた「のどじまん」に飛び入り参加するためではありません。

 滝の流れる美しい庭園で開かれる野点(のだて)を喫するためです。


 青空の下、緋毛氈(ひもうせん)に座り、流れる滝の音を聞き、飾られた一輪の花と「茶心通古今」(茶の心古今に通ず)の書の下(もと)で行われる男子学生のつたない点前(てまえ:茶を点てる一連の動作)を見ていると心が落ち着きます。

 大学の雰囲気も良いなぁ。

 いつの時代にもある「青春時代という空気」は、長くそれにつかると鬱陶(うっとう)しくもありましょうが、たまに触れると懐かしく心地よくもあります。
(うわぁ、と思ったあなた。こんなことを臆面もなく書けるのはわたしがトシをとったからです。悔しかったら君もトシをとりなさい)

 以前は、よく近くの寺で催される茶会にも行ったのですが、最近はそれも面倒になって(点前自体より、そこに集まるヒトビトがタイクツなので)、茶会とは疎遠になってしまいました。

 しかし、珈琲同様、茶はうまい。
 飲みたい。

 仕方がないので、テキトー点前で、椅子に座ったまま、茶杓もつかわず棗(なつめ)も持たず、茶筅(ちゃせん)をしゃかしゃか動かすだけで薄茶を飲んでいますが、たまには、簡略な作法ながら点前を経験したくなります。

 だから、この学祭の野点は良い機会なのです。

 学生の点前はともかく、供される菓子は地域有数の和菓子店のもので、美しくうまい。
 指導されている先生と何年か前に話をしたら、せめてお菓子は美味しいものをと考えています、ということでした。

 実は、この店、わたしの生まれ育った土地の和菓子屋なんです。
 小さく薄汚れた(失礼!)店で、子供の頃は、そんなスゴイオジサンだとは思わなかったなぁ。
 彼ももうトシで、しかも跡継ぎもおらず「暖かさも一代限り」になってしまうようですが……


 幸い、天気も良かったため、昼過ぎに愛用の単車で山の頂上付近にある大学に向かいました。

 いつもより多めの警備員たちと挨拶をかわして、だだっ広い駐輪場に入り、最近流行りのビッグスクーターの隣に単車を停めましたが、なんだか雰囲気が違います。

 バイクやスクーターの絶対数が少ないのですね。

 こんなところにも少子化の影響が!

 と思いつつ、さらに坂を上っていつもの茶会場所に行くと、もう終わってました。

 広場に行くと、バンドの飛び入りコンサートも終わるところです。

 つまり、学園祭自体がもう終わりかけだったのです。

 今年からスケジュールが変わったのか、今年に限って、土曜ではなく日曜に来てしまったためかはわかりません。

 ガッカリして帰ろうとしましたが、思いついて大学図書館に寄りました。

 そこで、見つけたのが、今回、ご紹介する「幸福王国ブータンの智恵」(アスペクト社)です。





 この本は、新聞記事で目にして以来、気になっていました。

 なにより、先日ご紹介した「アヒルと鴨のコインロッカー」に登場するのはブータン人ですからね。

 こういった偶然の符丁ということはよくありますね。あることが気になったら、それに連鎖するように次々と資料が手に入る。

 これは、別に超常現象ではなくて、どこにいても無意識にそういった情報を探しているから目に付くだけなのでしょう。

 さっそく、中身を見てみます。

 単語を拾ってみるだけで雰囲気はつかめるんじゃないでしょうか。

「GNPよりGNHが大事です」
「ゆっくり近代化しています」
「国民の幸せを政策化しています」
「人々は民族衣装、建物も伝統建築です」
「アメリカなどの大国とはつきあいません」
「役人はワイロとは無縁です」
「誰でも国王にあうことができます」
「巨大なダムはつくりません」
「地下資源は掘り起こさないことにしています」
「森林は国土の六割を下回りません」
「特産物は水力発電です」
「観光客は無制限には呼びません」
「ほとんどの野菜は無農薬です」
「飢饉で飢えたことはありません」
「貧しくても学べるように、教育費はただです」
「病院も無料です」
「国じゅう禁煙です」
「ホームレスはいません」
「野生動物は殺しません」
「土地のない人には、国王がプレゼントします」
「仏教以外を信じても大丈夫です」
「小さな子供でも英語がペラペラです」
「肉なし月があります。でも、肉は食べます」
「基本的に殺生はしません」
「家を継ぐのは女性です」
「意外にも離婚の多い国です」
「孤児はいません」
「一夫多妻が認められています。でも財力が無いと無理です」
「病気になると、まず病院より寺に行きます」
「名前だけでは男か女かわかりません」
「飾るための花は摘みません」

 ざっと書いてみました。

 こうやって見ると、まるで桃源郷じゃないすか。

 特に「一夫多妻」あたりが……しかし、あとの経済力ってので不可能だな。

 では、いくつか説明を。
 一番最初が、わかりにくいかも知れません。
 ご存じのように、GNPは国民総生産ですね。これは第二次大戦中に「戦車を作る上で必要な資力」を評価するために作られた古色蒼然たる指標のため、今ドキ、これのみに頼って経済力を云々する政治家や経済学者がオロカモノであるということは知っておく必要があります。GNPは指標の一つにすぎない。
 GNHは「グロス・ナショナル・ハピネス」(国民総幸福)で、1976年に第4代ブータン国王(あ、ブータンは王制です)ジグメ・センゲ・ワンチュックが「物質的な豊かさより精神的な豊かさこそが国民の幸せにつながる」と打ち上げた理念だそうです。

「特産物が水力発電」というのは、隣国インドが慢性的な電力不足(昔、インドに行った時よく停電していました)だからです。

 100年前に誕生した山国ブータンが、かくもユニークな国であるのには、いくつか理由があります。

 それについては本を読んでください、といいたいのですが、私見では、ブータンが成立以来1991年まで鎖国を敷いていたことと、地理的に隣国の攻撃を受けにくく、ヒマラヤの水を豊富にいただく恵まれた土地であったことが要因だろうと思っています。

 さらに標高は高いけれど(首都の標高は2,000メートル)緯度は沖縄とほぼ同じという気候条件もありますね。

 また63万人という少ない人口が、そういった特殊政策を可能にしているのでしょう。

 人の数が多くなるだけで、国が行える福祉と施策には限界が生じるものですから。


 前にも書きましたが、だからこそ、人口127,000,000(1億3千万人足らず)をこえる日本と9240,000(900万人あまり)のスウェーデンを単純比較する愚行はやめねばならないのです。

 人口はいわゆる国の質量。

 質量が大きくなれば、動き出しにくく、動けばとまらない鈍重な国になってしまいますから。


 国小サク民寡ナシ(クニチイサク タミスクナシ)


 ブータンこそが、かつて老子や荘子のとなえた「小国寡民(しょうこくかみん)」の体現のように思えます。

 この本に書かれるブータン像が理想化されたものか、真実なのかを知る術(すべ)をわたしは持ちません。

 しかし、もし事実であるならば、この、100年にわたって世界が毒されようとしている「汚れたブンカ」の洗礼を受けることが、少しでも先延ばしになるように祈りたい気分です。

 すでにテレビ放映も始まり、インターネットの接続もできているということなので、それもかなわないことなのかも知れませんが。

 7月初版発行の新しい本ですから、書店で見かけられることもあるでしょう。
 その際は、一度、手にとって、ぱらぱらとご覧になることをオススメします。

P.S.
 ブータンの特殊性の理由に、もう一つ付け加えるならば、これも鎖国によるところは大きいと思われますが、仏教を国教とするブータン人の死生観があると思います。

 ブータン人の平均余命は66歳。 日本とは十年単位の違いがあります。

 病気になれば、病院よりも先に寺院に行くという事実が、病院代無料を可能にするとともに平均余命を下げているのでしょう。

 つまり、ブータンは、かつての日本のように死に近い国なのですね。
 だから、現代のワレワレとはまるで違う思想に思える。

 文明化とともに、ヒトは死を隠蔽し、そんなものは存在しないかのように振る舞い始め、科学を使って無理矢理寿命を延ばそうとします。

 そして、必要以上に、避け得ぬ死を畏れる。

 いずれ不死は実現されるでしょうが、未だその道は緒についたばかり。

 それまでは、少なくとも我々日本人は、目を覚まして死を感じ、昼に生きて死を考え、眠りにつく前に死について思いを馳せる生活をしたいものです。

 暗く必死にならず、明るく軽くね。

 その時が来て、ブザマな姿をさらさないために。

 「死ヌ時ハ、咲ッテ逝ケ」です。


 私のおすすめ:
幸福王国ブータンの智恵 /アスペクトブータン取材班/〔編〕 [本]

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