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2009年10月 2日 (金)

俺たちにはもう住めない 〜ノーカントリー〜




 遅ればせながら「ノーカントリー」を観た。

 暴力の申し子(個人的感想)コーエン兄弟が脚本、監督した作品だ(2007年公開)。

 2007年度第80回アカデミー賞で8部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞を受賞するという華々しい評価と、映画評に関して信頼を置く川村ナヲコ氏も絶賛(「間違いなく私の今年のベスト1です!」)していたため楽しみにしていたのだが、少なくともわたしにとっては、たいしたことのない作品であった。

 何のことはない、コーエン兄弟の過去作「ファーゴ」を一歩も出ていない作風にがっかりしたのだ。

 ある男(ジョシュ・ブローリン)が麻薬のモメゴト現場に遭遇し金を手に入れる。
 そいつを討つためにサイコな殺し屋が雇われ、男を追いはじめるが暴走し、雇い主すら殺して男を追い続ける。
 一方、その事件を、後手後手にまわりながらも追い続ける保安官がいた。


 つまり、これは「サイコ野郎のサイコな殺しオンパレード」の映画なのだ。

 名作コミック「パーム」で、結婚詐欺師の通称「伯爵」の人生を、JB(ジェームズ・ブライアン)が「生まれた時からサギ師で、死ぬまでサギ師だ」と簡潔に評したほどの深みもないあらすじだなこりゃ。



 コーマック・マッカーシーの原作『血と暴力の国』を読んでいないので、断言はできないが、多くの人が感銘を受けたという、作中で語られる「簡潔」かつ「意味深」な警句と、極端に台詞(セリフ)と説明を排した中年男たちの『演技』も、それほどに迫力を感じない上に言葉に含蓄が感じられない。

 その精神の依っている背景が見えず、常識が通じない爬虫類のように冷酷なコロシヤ、というのが、この作品のキモであり、皆が賞賛するポイントなのだろうが、小太りしかも似合わぬ長髪のヲタク的容貌、ハビエル・バルデム演じる殺人者がほとんど怖くないのが致命的だ。

 松永豊和氏のコミック「バクネヤング」の方が遙かに訳が分からず恐ろしい。

 他作品(しかも日本のマンガ!)との比較で、この作品を論じるのは間違っているのかもしれないが、比較せずとも「ノーカントリー」は、ギリギリと人を恐怖で締め付けるような恐ろしさに欠けた人殺し映画なのだ。

 確かに、役者の表情身振り、いわゆる『演技』でじっくり見せることなく、過剰な言葉とオーバーアクションでゲンナリさせる昨今の風潮に真っ向勝負した点は評価できるだろうが、なんのために出てきたかも分からず犬死にする伊達男(ウディ・ハレルソン)や、後半、見せ場もなく冷たくなって地面に転がるジョシュ・ブローリン、なんだか人生に疲れて、昔話と繰り言ばかりくりかえしている保安官トミー・リー・ジョーンズ(しかも彼は結局、殺人者とまみえることすらないのだ)など、まとまりなく、とりとめのないストーリーには、観ていてカタルシスを感じない。

 ラスト、暗殺者の頭上に打ち下ろされた鉄槌が「神の裁き」であるというなら、これこそ、ご都合主義の最たるものといいたくなってしまう。


 とにかく、男たちの演技に「殺伐とした映画なのに神話のような印象を受ける(川島ナヲコ評)」かどうかが、この映画の評価をわけるポイントなのかもしれない。


 劇中の警句?もあまり好きになれない。


 個人的にはこんなの方が好きだな。


「でも、それは本当のことだ。だから俺は行こうと思う」(伸たまき「星の歴史」より)

「逃げてどうなる」「ジジィになれる」(K.K「大都の夢」より)

「そんなに可愛いのに」「それが嫌やねん」(K.K「にぬき」より)

「寝ているあいだ、ネコはこっちで働いているのさ」(K.K「ロボ太と虹の谷」より)

「明るくて見えんが、星は昼も空で輝いている。だが、起きている間は夢をみるな。夢は夜にみるものだ」「モーニングムーンというものがある」「その調子だ」(不明)

「女好きにはふた通りある。女の体だけ好きな奴とアタマも好きな奴だ」「俺は両方とも好きだな」「では、二度と女に近づくな」

「女遊びは構わない、それは魂を傷つけぬから。恋はいけない、魂を傷つけるから」(中里介山)

 ちなみに、この映画は原題を「No country for old men」といいます。

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