ミミック 〜なぜカタツムリの殻は汚れないのか〜
「ミミック」という映画がある。
1997年作、ミラ・ソルヴィノ主演で、遺伝子操作によって出現した新種の巨大昆虫が、擬態(ミミック)を使って、ヒトを襲い始めるという内容で、人気があったために続編も作られている。
一般に、モノガタリにおいて、ミミック(擬態)と表現される場合、ほとんどは、シェイプシフター(変身)を意味するが、映画では、素直に、腕を畳み外殻をひっつけると、まるでコートを着た男のように見える巨大昆虫のことを指していた。
さて、ここからが本題である。
米国で「バイオミミックリー」と呼ばれる立場がある。
米国で「バイオミミックリー」と呼ばれる立場がある。
昆虫から意識的にさまざまな事象を学び、それを人類に役立てようという人々のことである。
この分野で、日本は世界一、二の技術を持っている。
日本人は昆虫が好きなのだ。
その理由のひとつは、当然あの「ファーブル昆虫記」にある。
フランス人が、当地ではほとんど無名だったファーブルの名を、日本からやってくる大量の観光客によって逆に教えられ、あわてて仏国の著名学者として扱い始めたのは、記憶に新しいところだ。
人間が工夫した技術を「昆虫がすでに行っていた」ということが、実はよくある。
宇宙工学の三浦公亮氏が生み出した、太陽光パネルが、ひっかかりなく一瞬でぱっと開く「三浦折り」は、実は羽化する時の蝉の羽の折り畳み方に酷似していた。
ニレウスルリアゲハが、羽を瑠璃(ルリ)色に輝かせるのは、LEDと同じ原理であった。
だからこそ、逆に、ヒトが昆虫を調べて新しい技術を得る立場である「バイオミミックリー」、日本において石田秀輝氏が「ネイチャー・テクノロジー」と呼ぶ、が表舞台に登場してきたのだ。
「自然に学ぶ粋なテクノロジー 〜なぜカタツムリの殻は汚れないのか」(石田秀輝著:化学同人)を読んだ。
昆虫を利用する、という点からいえば、著者、石田氏は異端だ。
氏は、もともと鉱物をメインとした材料化学の技術者で、陶磁器材料の開発に携わってきた。
ありていにいえば、便器の黄ばみを押さえるための材料研究をしているうちに、鉱物を利用する技術から、昆虫の性質を利用する立場に鞍替えしたのだ。
ありていにいえば、便器の黄ばみを押さえるための材料研究をしているうちに、鉱物を利用する技術から、昆虫の性質を利用する立場に鞍替えしたのだ。
ゴキブリの羽は、どんなに汚れた場所に行っても、いつもピカピカだ。
それを利用できないか、と筆者は考え、研究を始めたが、それは分泌物によるものだったので使えなかった。
それを利用できないか、と筆者は考え、研究を始めたが、それは分泌物によるものだったので使えなかった。
そして、たどり着いたのが、カタツムリの殻だった。
そういえば、湿った汚れがちな場所にいるカタツムリの殻は、不思議といつも美しい。
分泌物も無ければ、猫のように自分でなめてもいないのに。
分泌物も無ければ、猫のように自分でなめてもいないのに。
観察と研究の結果、氏は気づく。
「水と素材との表面エネルギーの差」より、「汚れと素材の表面エネルギーの差」の方が大きければ、水をかけるだけで、水が素材と汚れのあいだに入り込み、汚れをはがすことができるのだ、と。
その原理は、実用化され、便器やビルのタイルなどに使われ始めている。
また氏は、サバンナにある蟻塚の空調システムについても言及している。
よく知られるように、熱帯の乾燥地にありながら蟻塚の中は、常に30度に保たれている。
チムニー効果で換気をし、地下深くから水を含んだ土を運び上げているが、ポイントは、土のミクロ的操作にあるらしい。
チムニー効果で換気をし、地下深くから水を含んだ土を運び上げているが、ポイントは、土のミクロ的操作にあるらしい。
土はそれ自体、小さな穴がたくさん開いている。
いわゆる多孔質物質だ。
氏は、その「孔の大きさを微妙に変える」ことで湿度や臭いやガスを分子レベルで出し入れし、調整することができるのだ、と結論づけている。
昆虫から得られるテクノロジーは、同時にエコロジーに則(そく)している。
残念ながら、ネイチャー・テクノロジーは、生まれたばかりの技術で、まだ成果は乏しい。
2030年頃までには、成果が出そろうだろうと著者は述べているが、地球規模のエコロジーを実現するためにも、ぜひ早期の研究を望みたい。
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