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2009年2月26日 (木)

時代が追いついた! 〜ボット・ネット〜

 もう十年ほど前になりますが、「Division by zero」という作品を書いたことがあります。

 企業に頼まれて、システムのセキュリティをチェックするプロラマが主人公のミステリ作品です。


 その作品で、彼はかつてザンパノと名乗り、ジェルソミーナと名乗るハッカーと、ハッキング競争を繰り広げていたという過去を持っていました。

 もちろん、二人はお互いの素性を知りません。性別すら不明です。

 ザンパノの強みは、数多くの一般パソコンに潜んだ「ウイルス系ソフト」を、自分のコマンドで自在に操れるという能力でした。

 ウイルスの仕込み方は、誰もが簡単に仕える総合ビジネスツールを開発し、無料で配布するという方法です。

 インストールした時点では、ウイルス動作は行いません。

 また、そういった機能もない。

 しかし、最初に起動した時点で、自分自身を再コンパイルしウイルス化、直後にセキュリティ・ソフトのコアを改竄(かいざん)してウイルス感知を不能にして、システムに潜伏する、という設定でした。


 彼は、このウイルス自体をザンパノと名付けて、ハッキングの王として君臨していたのです。

 そして、ある事件を機に、彼はハッキングの表舞台から姿をけします。

 物語は、数年ぶりに復活して悪事を行うジェルソミーナを、ザンパノが阻止するという話だったのですが、まあ、どの新人賞でもケンもホロロの扱いでした。

 個人的には好きだったのですが、コンピュータ関係のハナシは、当時の世相では完全一次落ちだったのですね。

 これが、医療系だとか浮世絵系だと、文化系の選考員と読者にも分かってもらえたのでしょうが。


 設定は、いま思うと、ブラッディ・マンディに似ていますね。


 どうも、早すぎると時代がついて来ないらしい(って、つまり時代とズレているというだけですが)。


 なぜ、今になって、こんな話を書いたかというと、ご存じの方も多いでしょうが、昨年あたりから、先の「ザンパノ」に似たウイルスソフト(個人のパソコンをネットからの外部命令でロボットのように扱うという意味で「ボット」と呼ばれています)が、実際に犯罪に使われるようになっているからです。


 具体的には、ボット・ウイルスに感染したパソコンに向けて、コマンダー(つまり犯罪者)が指示を出すと、一斉にそれら多数の感染パソコンが命令を実行します。

 その内容が、CDのトレイを開けたりするだけなら可愛いのですが、だいたいは、ある特定のサイトに向けて、集中的にアクセスを試みます。

 いわゆる「ブルートフォース・アタック」と呼ばれた、大量アクセスによるシステム停止を狙っているのです。

 かつて、人気イベントのチケット予約やソフトのネット予約で、大量アクセスの結果、システムがダウンしたことは、皆さんご存じでしょう。

 さすがに、政府系や、しっかりした企業のサーバーは、その程度ではコケなくなりましたが、今でも、アタックに弱い脆弱(ぜいじゃく)なサーバーで運用されている音楽配信会社などが多々あります。

 そういったサイトに、ボットに感染した多数のマシンからなる、パソコン・ネットワーク(ボット・ネットと呼ばれます)から、一斉にアクセスをかけると、そのサイトはアクセス不可に陥るのです。

 そうなると、企業としては死活問題です。


 ボット・ネットの問題点は、自分でネットを広げなくても、ネットワークの時間借りが可能なことです。
 つまり、ネット上に、「ボット・ネット貸します。1時間100万円」といった、広告がなされているのですね。


 具体的に書くと、ある人物が、特定のサイトを攻撃するためにボットネットを時間借りします。

 そして、そのサイトに脅迫状を出す。

 拒絶されると、レンタルした時間分、そのサイトを攻撃し使用不能にする。

 それが嫌ならカネを出せ、というのです。



 いやあ、まさか実際に、こうった犯罪が行われるようになるとは思いませんでした。


 当時は、論文などで、理論上、いろいろなウイルスが考案されていて、それからインスパイアされてDivision by zero」を書いただけだったのです。


 まったく、ネットワークの世界は想像以上の速さで変わっていますね。


 わたしたちも、たまには、ルータなどの「パケット数」を確認して、データ量が異常に多い場合には、コンピュータが、ボット・ウイルスに冒されているのではないかと、疑ってみることも必要ですね。



 ちなみに、タイトルの「Division by zero」は、かつて仕事でプログラムを組んでいた時、不完全なプログラムを仮実行して、バグによるフリーズが生じた際に表示される「エラーメッセージ」でした。

 ご存じのように「0による除算(割り算)」は「数学上あり得ない行為」、つまり致命的エラーなのです。


 ザンパノとジェルソミーナ(実は女性だったんです。だってフェリーニ監督『LA STRADA 道』のヒーロー・ヒロインですから)の二人のハッカーの間にも、やがて「Division by zero」が発生していきます。

 ハッキングのテクニックも、『道』のイメージ通り、鎖を素手で引きちぎる感のある力ワザのザンパノと、繊細にトラップをかいくぐるジェルソミーナという対比で描いていて、けっこう自分では気に入っていたんですがねぇ……

 セケンにゃ通用しませんでしたわ。

 細部が、かなり古めかしい作品なので、おそらく公開することはないでしょうが、個人的には好きな作品です。

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