イノセント・ゲリラの祝祭
海堂 尊氏の「イノセント・ゲリラの祝祭」を読みました。
読み終わっての感想は、あまりありません。
正確にいうと、小説「イノセント〜」に対しての感想は、です。
なぜなら、この作品は、これから始まる「厚労省」対「A.I.(*)導入派」のパワーゲームの序章に過ぎないから。
*A.I.
死亡時画像病理診断(オートプシー・イメージング)
検査機器を用いて、遺体に損壊を加えず、死因を特定する診断法。
いわゆる非破壊検査の一種。
解剖医の不足から、年間数パーセントしか行われていない不審死診断を、飛躍的に向上させるものと期待されている……らしい。
はっきりいえば、本作から、海堂氏はミステリとしての「バチスタ」から、より政治性の強い、松本清張的社会小説へ舵(かじ)をきったということです。
第二作の「ナイチンゲールの沈黙」が、ミステリとしてハズし気味だったため(別項で書きます)、おそらくは、彼の本道である社会小説、しかも彼がそれを社会に訴えるためにバチスタを書いたといわれている「AI導入」を、小説の軸に据えなおしたのでしょう。
ご当人も「某医療機関の病理医として世間に訴えたい問題があり、それをフィクションに盛り込んでいる」と述べられています。
考えてみれば、海堂氏は「バチスタ」の頃から「ミステリ部分の真相は、そう意外ではない」(選評時の大森望氏)と評されていたわけだし、ミステリ的なギミックがそれほど得意ではなく、こだわりもないのでしょう。
瀬名秀明の「パラサイト・イヴ」を読んで、当時、分子生物学の実験をやっていた海堂氏は、こういう小説なら自分にも書けそうだ、と考えたらしい。
ということは、彼の、小説へのとっかかりは、ホラー、というか怪奇小説だったのかな。
おそらく小説の体裁にはあまりこだわりがないのだろう。
と、いうより、やはり、世の中に伝えたい(AI導入)欲求が強すぎるのでしょう。
今回の「イノセント〜」は、もう田口、白鳥ペアの進むレールは敷いた、あとは、ミステリという余計なコロモは脱ぎ捨てて、厚労省や既得権益団体をバッサリ斬って、AI導入後の良き未来を語って行こう、という感じが見え見えです。
結論からいえば、一冊の本として出版するには、「イノセント〜」は失格です。
これから始まる大河ドラマの序章としてなら許せる範囲ですが。
大河といえば、登場人物が、どんどん肥大化、というか増えていってますねぇ。
覚えられるかなぁ。
それはともかく、
かつて、その謎に惹かれて読み始めた読者へのサービスとして、できれば少しだけでも、ミステリの香りを残して欲しかったと思うのは、わがままでしょうか。
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