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2008年10月15日 (水)

テガミバチ 〜異世界のポストマン〜

 郵便配達といえば思い出すのは「ポストマン」だ。

 ケビン・コスナーの映画をご存知の方も多いだろう。




 わたしは、この映画が嫌いではない。

 だから、世間的にあまり人気が出なかったこと、あのウォーターワールドよりも知名度が低いことが残念でならなかった。


 良い機会だから、ちょっと「ポストマン」について書いてみよう。

 まず、我々は、何気なく郵便配達人ポストマンと呼んでいるが、アメリカでは、一般的にポストマンとは呼ばないそうだ。

 Please Mr.Postman(Beatls e.t.c)などで有名だから、英語文化圏では、どこでもそう呼ぶと思ったら、そうではなく、それは英国での呼び名らしい。

 なんでも、ラテン語からフランス語を通じて英国でpostになったそうだが、アメリカでは、ゲルマン語から派生したmailを(特に独立以後)場所を意味する以外の郵便関係の言葉に使うようになり、郵便配達人は「メイルマン」と呼ばれているのだという。

 作家デイヴィッド・ブリンの「ポストマン」は、ジョン・W・キャンベル賞・ローカス賞を受賞した作品、いわゆる「終末戦争後の世界」使い古されたアフター・ホロコーストもので、タダのチンピラだった男が、誤解で英雄に祭り上げられ(いわゆる、Reluctant Hero:リラクタント・ヒーローもの)、ついには世界を動かす組織を作り上げるという話だ。

 Reluctant Hero:リラクタント・ヒーローものについて補足すると、巻き込まれた主人公が、大志もなく、生き残るためにあがいているうちに、本人の意志に反し英雄になってしまう、という話のことだ。よくあるよね。


 アフター・ホロコーストの世界、荒野で偶然見つけた郵便配達人のジープと制服を使って、点在する小さなコロニーに入り込もうと考えた、流れ者の主人公ゴードン・クランツは、殺された配達人が持っていた手紙の反響に驚く

 人々にとって、離れた土地の情報や人の消息は、宝のように貴重だったのだ。

 ほら、杜甫も『春望』で言っているではないか、「家書抵万金」(カショバンキンニアタル)と。

 同時に、人々は、郵便という制度を象徴するポストマンに、失われた文明への憧れと、その復興の気配を感じて大いに盛り上がる。

 ちょっと、ウマい話にありつきたかっただけのチンピラが、人々が発する熱に低温火傷(ていおんやけど)し、ついには、英雄の役を演じ通さなければならなくなってしまうのだ。

 これぞ、Reluctant Heroモノの醍醐味。いいねぇ。

 人と人の心をつなぐ郵便配達の感動話に、巻き込まれヒーローを使えば面白くないわけがない

 映画の方は、ちょっと演出にミスがあったりして人気がでなかったが、小説は間違いなく傑作です。

 ちなみに、題名が「メイルマン」ならぬ「ポストマン」なのは、アフター・ホロコーストで、世界観が独立戦争前の西洋文明未発達時代(1700年代)に似てしまったため、あえてその頃に使われていた「ポストマン」を使ったのではないかと、評論家の高橋良平氏は指摘している。

「イル・ポスティーノ」
「山の郵便配達」
「郵便配達は二度ベルを鳴らす」等、

 まこと、郵便関係の映画に不作はほとんどない

 あ、でもあのナガシマカズシゲの、その名もズバリ「ポストマン」はどうなんだろう?ひょっとしたら駄作もあるかも。彼はあまり演技がうまくないし……

 あと、人情バラエティ番組で、タレントが、ぞろぞろとスタッフを引き連れて、外国の誰かに手紙を届ける「ポストマン」ってのも、もうすぐ始まるね。
 ああいった、お膳立てされた、デキアイのお涙ちょうだいは観る気はないけれど。



 さて、「テガミバチ」
 これも郵便配達人の話だ。
 ということは、名作なのだろうか?





 テガミバチの舞台は、どことは知れぬ異星の、アンバーグラウンドと呼ばれる暗黒の土地

 権力者が住む、小さな島の真上にだけ人工太陽が輝き、辺境に行くほど暗くなってしまうという、きっちりとした階級のある世界だ。

 辺境に点在するコロニーに手紙を届けるのが「テガミバチ」と呼ばれる「メイルマン」だ。

 コロニーの間に横たわるのは、鎧虫(ガイチュウ)と呼ばれるバケモノが住む危険な荒野

 ほらほら、なんとなく似ているね。おそらく作者の浅田弘幸も、あの「ポストマン」からインスパイアされて「テガミバチ」を書いたに違いない。

 だが、「ポストマン」と違い、人々は、なぜかテガミバチを蔑(さげす)んでいる。


 ある時、ひとりの男の子(主人公:ラグ・シーイング)が、手紙(小荷物)として、届けられることになった。

 若きテガミバチ、ゴーシュ・スウェードは、様々な困難を乗り越えて、ラグを無事、目的地に届け、二人は親友になる。
 この旅の合間に、世界観やギミック心の弾で荒野の怪物を倒す武器「心弾銃」やその原動力の宝石)の説明がなされるのだ。
(って、この名前のセンス、なんとかならないかな。ゴーシュって、モロセロ弾きすぎ。あと、町の名前がヨダカってのも、まあ聖書から採ったのならいいが、まさか、あの少女コミックSFの名作から引っ張ってきたんじゃないよね?いや、たぶん宮沢賢治だな、ヨダカの星だ。じゃ、わたしの好きなグスコー・ブドリも出してほしいな)

 ゴーシュの目的は、人工太陽の下、日の沈まない首都で働くヘッド・ビーになって、足の不自由な妹治療することだという。


 数年後、ゴーシュを追ってテガミバチになるラグ。
 だが、ゴーシュはテガミバチをクビになり行方不明だった。

 主人公ラグにはいくつか目的がある。それは、自分にテガミバチへの憧れを与えてくれたゴーシュを探すことと、連れ去られた母親を見つけることだ。

 数々の仕事をこなすうちに、ラグは反政府組織ゴーシュがいることを知る……


 以上のように、テガミバチは、絵柄がちょっとわたしには合わないのと、いかにもコミックっぽいロリータ・ビースト(すぐにパンツを脱いでしまう亜人間)の出てくるのがちょっと辛いのだが、それを差し引いても、立った設定で、かなりのセンス・オブ・ワンダーを与えてくれる佳編だ。

 不思議な宝石の力を使い「自分の心を削って弾として打ち出す」という考えは、本当の銃弾に似ていて面白い。
 ほとんどの人が、現実の猟師銃弾で獲物を殺すと考えているようだが、本当はちがうのだ。
 良い猟師は、自分の心=魂を弾丸にのせて獲物を撃ち抜いている。
 だから、きわどい駆け引きをし、知恵比べをした末に打ち倒した獲物、好敵手といってもいい、を、たくさん知っている猟師は、例外なく哀しく寂しく優しい目をしているという。(蛇足ながら、わたしが実際に知っている限りでも、猟師は家庭が不幸なことが多い。

 あと、テガミバチで描かれる、相棒動物(ディンゴ)とテガミバチとの信頼と愛情の関係も、猟師と猟犬の関係に似ているな。


 まるで、手塚治虫の「火の鳥」のように、掲載誌(月刊ジャンプ)の休刊で、少年ジャンプ、ジャンプ・スクウェアと渡り歩いている作品ではあるが、魅力があるためか現在も連載が続いているのは幸運であるというべきか。


 1話あるいは数話で1エピソードのストーリーは、先の「ポストマン」同様、人と人との心をつなぐ話で、秀逸である。

 ただ、先に書いたように「ポストマン」と違うのは、テガミバチが、街と街の間に怪物を放って孤立させ、人々を思い通りに支配しようとしている権力の手先と見なされて、蔑まれているという点だが、それによって「ポストマン」に流れていた、ふんわか暖かい雰囲気を無くしてはいるものの、決して作品の味をそこなっていない。




 書き込みが多くパースが偏っていて、ちょっと見にくい作品ではあるが、機会があればぜひ読んで見てほしい。

 読んで、ラグが心弾を撃つことで、心を開かぬものの隠れた叫びが、荒野に谺(コダマ)する一瞬の感動を、ぜひ味わってほしい。

「テガミバチ」 棺を覆わないと定まらないが、いまのところ秀作です。


 私のおすすめ:
テガミバチ 1 (1) (ジャンプコミックス)

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