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2008年5月31日 (土)

オリジナル−復刻版=歴史の重み 〜平成の玉虫厨子〜

 この三月から六月末日まで、奈良県斑鳩町の法隆寺で『特別公開「法隆寺秘宝展」春季 』が催されています。

 この秘宝展、目玉はなんといっても「平成の玉虫厨子(たまむしのずし)」でしょう。 

 しかし、「玉虫厨子」……。

 ほとんどの人は、歴史の授業で、その名を聞いたことがあるでしょうが、それがどんなものか、すぐに思い浮かべられる人はどれぐらいるでしょうか。

 私も小学校だったか中学校だったがで習ったはずなのですが、その姿形は、まるで覚えていませんでした。

 お恥ずかしい話ですが、そもそも厨子なるものが、具体的にどんなものなのかさえ、はっきりとは知りません。

 たしか「安寿と厨子王」なんて話もありましたが…… 

 ためしに広辞苑で引いてみると、


【厨子】(本来厨房において食品・食器を納めた棚形の置物)
1.仏像・舎利(しやり)または経巻を安置する仏具。両開きの扉がある。
                     [図]厨子2→玉虫厨子(図)。
2.調度・書籍などを載せる置き戸棚。棚の一部に両開きの扉をつけてある。厨子棚。
3.屋根裏。天井裏の物置場。つし。


とあります。

 乱暴にいってしまえば、開き戸のあるモノイレというものが厨子なのです。
 ここで、ちょっと驚いたのは、厨子の例として「玉虫厨子」の図まで用意されていることでした。やはり玉虫厨子は厨子のトップランナーなのです。
 もっとも、ご存じのように広辞苑の図版はお世辞にも写実的とはいえないものなので、図をみても、さして感銘は受けません。

 よほど歴史に造詣が深く、古代史に特別な思い入れを持っている人ならばともかく、正直なところ、実際に本物の玉虫厨子を見ても、それほどの衝撃は受けないでしょう。

 昨年、知人を案内してオリジナルを見たのですが、それが正直な感想でした。
 全体に黒ずんで歴史を感じさせますが、それだけのこと。

 あたかも、兼好法師が徒然草152段において、資朝卿(すけとものきょう)[日野資朝]をして、年老いた高僧を「年の寄りたるに候ふ(ただ年をとっているだけだ)」とバッサリ切って捨てたように、わたしには、ただ古いだけの入れ物に過ぎないように思えたのです、が……。


 さて、ここからが本題です。

 みなさん、玉虫厨子が、なぜ厨子の前に「玉虫」がついているかご存じでしょうか?

 それは、厨子のまわり、正確に言うと彫金の下に、美しく妖しく輝く玉虫の羽を張りつけた故のネーミングなのです。

 ただ、経年劣化で羽は黒ずみ、厨子に張られた彫金の下の黒っぽいものが、玉虫の羽であると言われても、それがどんなものか想像できなくなっています。

 さぞや昔は美しかったことだろう、と、これもまた想像力豊かな人のみが感動できる国宝になっているのです。




 しかし、幸いなことに、この6月末までに特別展に行った人は、燦然と輝く本当の玉虫厨子を見ることができます。

 というのも、岐阜県高山市で造園業を営んでいた中田金太氏(故人)らが、日本の伝統芸能をカプセル化して保存するために、1400年前の厨子を現代の技術で甦らせたからです。

 その考えに賛同した職人たちがプロジェクトに集い、約4年がかりでよみがえらせた厨子は二基あります。
 一基は飛鳥時代の技法で制作した「オーソドックス版」と呼ぶべきもの、もう一基は高蒔絵(たかまきえ)など現代の技法を随所に用いた「プログレス版」と呼ぶべきものとなっています。

 特に、プログレス版(私の勝手なネーミングですが)は、実際の厨子では、ただのペイントで描かれた扉の画を、貝殻を埋め込む螺鈿(らでん)に似た蒔絵手法で玉虫の羽を埋め込み、燦然と輝かせています。
こちらのサイトにわかりやすい写真があります。




「平成の玉虫厨子」は高さ約2.3メートル。
 案外、大きなものです。
 そして、二基に使用したタマムシの羽は約4万3000枚(約2万1500匹)。総勢約4000人の職人が参加し総費用は1億円を超えるといいます。

 このオーソドックス版とプログレス版を、同時に並べて見ることのできるのが、この特別展の最大のメリットです。

 展示が終わると二基は別々の場所に展示され、一堂に会する機会が今後どれほどあるか分かりません。



 復刻版の玉虫厨子を見た後、その足でオリジナルを見ました。

 今度ばかりは、歴史的想像力が欠如している私にも、その黒ずんだ下に隠された、かつての美をはっきりと感じることができました。
 その黒ずみこそが、かつての「輝き」を覆う、千数百年の歴史そのものなのだと改めて気づかされたのです。

 人の洞察力は弱く、目に見える美しさしか認識できないことが多いものです(私だけかもしれませんが)。

 しかし、現代の技術、努力で、本来の古の美を再現すると、それを見ることで、年を経た宝物の過ごしてきた時間を感じることができるのです。

 私にとって、それは新鮮な驚きでした。


 あとひとつ。

 余計なことと叱られるかも知れませんが、気になったことを……

 平成の厨子の周りの陳列ケースには、厨子から写し取られた図案が展示されています。

 その画は、紙に写されたものを見ると、ヘタウマというか、はっきり言ってあまり写実的ではありません。

 お釈迦様(ブッダ)が、前世で飢えた虎に我が身を投げ出す姿を描いた「捨身飼虎図」では、虎か猫か分からないくらいです。(さらに言うと、ブッダは、ちびまるこに出てくる花輪君に似ている……)

 しかし、これがひとたび厨子上に描かれると、まったく印象が変わってくるから不思議です。

 一見稚拙と思われた図案が、まるでところを得て命を吹き込まれたように、活き活きとして見えるのでした。

 二次元と三次元(ちょっとだけ立体ですね)、紙描きと埋め込みの差によるものかもしれません。


 余計なことを書いてしまいましたが、そういった図案の批評をしつつ、平成の玉虫厨子をご覧になるのも一興かと思います。

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