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2008年2月17日 (日)

幸せに生き、幸せに逝く 〜なれど残されし者は……〜

 もう、ずっと昔、友人にすすめられるまま、わたしは単車にまたがって、エンジンをかけ、クラッチを握り、ギアを入れ、クラッチをはなし……そしてバイクは走り始めた。

 人生が変わった瞬間だった。

 以来、もう長い間、バイクに乗り続けている。季節にかかわらず、今も週に数回はバイクにのって出かける。

 初めてマシンが走り出した時から、わたしは、ウオーカーである前に、ランナーである前に、ドライバーである前にライダーなのだ(気分的に正確にいうとバイカー、かな)。



 随分前になるが、近くの図書館に出かけた時、その入り口に張ってある時事ニュース(最近は見かけないが、以前はよく公共機関に張ってあったポスターサイズのニュース)をひと目見るなり欲しくなって、図書館員と交渉後、もう掲示期限も過ぎているということでもらって帰ったことがある。

 そのポスターはモノクロで、大きな写真と横に小さな記事が少し。

 写真には、ひとりの男が大型バイクにまたがって気持ちよさそうに走っている。
 型はわからないが、どうもオールド・バイクのようだ(のちにサンビームと判明)。

 だが、その写真の特質は、バイクではなく、タンクに乗り、バイクのハンドルに手を掛けて遙か前方を昂然と睨んでいるネコにあった。

 バンダナを首に巻き、小さなゴッグルを頭にのせ、怯えなど全く見せず、さながら友のための先見(さきみ)としての役割を果たすのだ、といわんばかりにヒゲをなびかせ前方を見つめるネコ。




 それが、バイク猫ラスタスとマックスの写真だった。

 そのひとりと一匹の姿は美しかった。



 1988年、カナダの板金工、マックスはバイク乗りの集まる広場で一匹の黒猫を拾った。
 バイクに物怖じしないそのオスネコは、ラスタスと名付けられ、マックスの愛車サンビームのタンクに乗っかって週末ごとのツーリングに参加し、名物となった。

 後に祖母の面倒をみるためにマックスはニュージーランドへ移住(もちろんラスタスも共に海を渡る)。

 彼の地でも、すぐにファンクラブが結成され、二人のTシャツの販売会社もでき、その売り上げは動物虐待防止協会に寄付された。

 小切手にサインするのも二人同時。マックスのペン字の横に、ラスタスは手形のハンコをつく。


 ニュージーランドでの、ひとりと一匹の幸せな生活は話題になり、その結果時事ニュースのポスターでわたしは彼らを知ったのだ。



 後に、日本でもシンラ(だったかな)などで紹介されている。ああ、あったこれだ(左写真:あとで見つけたらから載せておきます)








 それは、ずっと続いても良いはずの幸せな日々だった。


 しかし、この幸せなふたりの生活は唐突に終わりを告げる。

 1999年、いつものように二人で走るバイクに、対向車が猛スピードで正面衝突してきたのだ。


 3日後、1000人以上の人々に、ひとりと一匹が共に眠る棺は見送られた。

 棺の上には、バイクに乗る時同様、手前にラスタスのヘルメットと赤いバンダナ、その後ろにマックスのヘルメットとバンダナが置かれていたという。




 あの挑むような目で前方を見つめていたラスタスは、おそらく死の瞬間までそうしていたのだ。

 マックスも死の数秒前まで、風を心地よく感じていただろう。

 そして、親友同士は、共に死に、同じ棺で送られた。


 誤解を恐れずあえて言えば、ふたりは幸せだったのだとわたしは思う。


 一番不幸なのは、あの勇姿と思い出のみ残された、極東に住むわたしを含めたバイク乗りの人々だ。

 これも誤解を恐れずに言えば、本当のバイク乗りはつねにバイクで死にたいものだからだ。
 畳の上で、病院のベッドでなんか死にたかねぇよ。

 だが、それは滅多に自分で選べるものではない。
 戦友とも呼ぶべき親友と共に自分の一番好きなサンビームで死んだのは、彼らの生き方が善きものだったからに違いない。

 そう思っては、時折、大事にしまってあるポスターを取り出してながめては、わたしはふたりのバイク乗りに、同じバイク乗りとして、敬意と憧れと羨みをこめて一杯飲むのだ(珈琲だけど)。

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