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2006年12月 4日 (月)

血を流すヘラクレス 〜007カジノ・ロワイヤル〜


 公開日が映画の日に重なったので、「007カジノロワイヤル」を観てきた。

 平日ながら、映画の日と重なったために、かなりの人出を覚悟して、インターネット予約をして出かけた。

 映画のエントランスに入ると、予想通りにえらい混雑。

 やはりシート予約をしてきてよかったと思いながら、エレベーターで三階大劇場に上がると……まったく人影がない。
 大きな劇場に、パラパラとまでいかない人影があるだけだった。
 予約した劇場のド真ん中通路寄りに座ると、横一列にはほとんど誰も座っていない。

 じゃあ、あの人混みはいったいなんだったんだと思っている内に、場内が暗くなり、予告編が始まった。
 来年5月の「スパイダーマン3」やイーストウッドの「硫黄島」のあと、画面が16:9に広がり本編が始まる。


 その前に、「カジノ・ロワイヤル」について一言。

 この映画はリメイクである。
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 最初の映画は、1967年に制作された。
 しかも、エスピオナージュ(スパイモノ)のパロディとして。
 監督はあのジョン・ヒューストン監督!
 出演者も、訳が分からないほど豪華。

 デイビット・ニーヴン、ピーター・セラーズ、オーソン・ウェルズ!そして、ウディ・アレンなど。

 音楽制作は、おそらく同じパロディのオースティン・パワーズはこれを本歌取りにしたであろうバート・バカラック。(個人的には「カジノ・ロワイヤル」は映画史上の名曲のひとつだと思う)バカラック特有の都会的で洒脱なメロディが最高にイカしていた!
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 という、ハリウッド映画史の中でも特異な位置を占める作品を、真っ向から大まじめにリメイクしたのが今回のカジノ・ロワイヤルなのだ。

 この映画、公開前から酷評をうけていたのがボンド役のダニエル・クレイグだ。
 スピルバーグの「ミュンヘン」で傭兵役だったクレイグは、金髪碧眼、マッチョタイプのどちらかというとハンプティダンプティ、ずんぐりむっくりな印象の男だった。

 イアン・フレミングの原作はともかく、初代ボンドのショーン・コネリーの印象が強すぎて、大部分の人は、ボンドといえば大男だがスマートで髪は黒、みたいなところがあるから反発するのも無理はないだろう。(もっとも、長くボンド俳優を続けたロジャー・ムーアはスマートな大男であったが、やはり金髪碧眼であったのだが)

 なんせ、二十代の頃から出演依頼があったものの、いくらなんでも若すぎるということで、歳をとるのを待って再度オファーされたという伝説のあるピアース・ブロスナンの後任だ。文句を言われても仕方がないのかもしれない。

 しかし、個人的には、こういったマッチョ・タイプの男が主演の映画というのは嫌いではないから、期待してオープニングを迎えたのだった。






 で、観終わってどうだったか?

 まあ、面白いのではないか、というのが正直な感想だ。

 特筆すべきなのは、本作で、監督はボンドを「血を流すヘラクレス」として描いている点だ。

 殴られて血を流し、うめき声をあげ、斬られて血を流し、叫び、毒を盛られて死にかける。

 あまつさえ、素っ裸にされて、股間を巨大なロープで殴りまくられるというおまけつき。

 こう書いてしまえば、ダブルオーというより、MI(ミッション・インポシブル)という感じもするな。
 ちっこいトムより、大きなクレイグにMI4の主役をしてもらいたい。


 とにかく、今までの、殴られてもクール、殴ってもクール、どつかれると唇を拭うが決して血は見せないボンドとは違って、今回のボンドは高価なドレスシャツが血まみれになるほど血を流し続けるのだ。

 アクションの戦闘神ボンドではなく、血を流し呻く肉体派、人間ボンドだ。

 肉体派で思い出したが、コネリーボンドの髪が薄くなるのに従って、人気が陰り始めたのをきっかけに(特に、海が舞台のサンダーボール作戦で、水から上がったコネリーの髪がバーコード状態になったのがイタかった)、主演役者が切り替えられた際に、一作だけ主役を張ったジョージ・レーゼンビィの「女王陛下の007」も、ロケットやヘリコプターなどの奇天烈なマシンを出さずに、スポーツマンボンドの溌剌とした肉体を主に描いた作品だった。

 この作品で、生涯ただ一度の結婚をしたボンドは、その直後に妻を射殺される。
 個人的には好きな作品で、LDも持っていました。

 余談ながら、十年近く前、深夜テレビ「エマニエル婦人」で登場する白髪の紳士がレーゼンビィであることを知ってショックを受けたのだった。彼は老いてエロ俳優と化していたのだ。

 その「女王陛下〜」以来の肉体派ボンドが主演のこの映画、ボンドが007になる前の話、などと思わせぶりな言葉が予告にある、がそんなことはない。

 彼は、登場した時からダブルオーだった。
 ただのスポーツ野郎が組織に目をつけられてスカウトされる「トリプルエックス」のようなことは断じてない。

 内容については、取り立てていうべきことはないが、毒を盛られた時の対応などに、悪しきドタバタ感があって、ちょっと興ざめすることが残念といえば残念な点だ。

 主なお客様であるアメリカ国民の、平均知的レベル14歳にあわせてあるのだろうが、そんなことをする必要はないのに、というのが正直な感想だった。

 ちなみに、公式サイトは、ここ http://www.sonypictures.jp/movies/casinoroyale/ 予告編もここで観ることができるはず。アクションはさすがに凄いよ。


 そうそう、映画が混んでいたのは、同時公開のキムタク主演「武士の一分」に、妙齢のご婦人方が殺到したためだということが、その後の調査で判明しました。(この「武士の一分」は藤沢周平の短編「盲目剣谺(こだま)返し」の映画化だ、これについても書きたいことはあるのだが、他項に譲ることにする)



P.S.
 恥ずかしながら、この映画を見終わって強く思い出したのは大藪晴彦の主人公、特に伊達邦彦だった。 
 ボンドの、公称、身長180センチ胸囲120センチ、体重90キロという肉体的スペックや、急所を攻撃される拷問、そしてタクシードを着こなして上流階級の巣窟へ入り込む野獣といったイメージなど、マーティン・キャンベル監督はDK(DATE KUNIHIKO)のファンなのではないかと思ってしまうほど「諜報局破壊班員」に似ているのだ。

P.P.S.
 ハゲを露呈し、ヒーローとしては致命的ダメージを被ったショーン・コネリーは、念願の007降板を手にして以降、演技派の道を歩むことになるが、後に、件(くだん)のサンダーボール作戦のリメイクに、自ら出演することになる。
 プロダクションを異にするために007の名を公に付けることはできなかったこの作品は、「もうやらないなんて言わないで」(Never Say Never Again)と名付けられ1983年に公開された。真偽のほどは定かではないが、この「NeverSay〜」は、「もうボンドはやらん」とゴネるコネリーに対して彼の妻が言った言葉とされている。
 んで、この「ネバー〜」は、わたしがダブルオー作品の中で一番好きな映画なんだなぁ。

 特にオープニングで、ミッシェル・ルグラン(男と女)の甘くヒロイックな曲をバックに、髪に白いものが混じり、顔に皺の刻まれたコネリーが戦闘服に身を固めてジャングルを失踪する姿は、鮮やかで美しくすらある。

 彼の上司であるMは、きちんと男であるし(しかもエドワード・フォックスがやっている!シブイ)、Qはちゃんとワケの分からない秘密兵器をボンドに渡して迷惑をかけている。

 中盤で、衆目の中、コネリーとヒロインのキム・ベイシンガーが踊るタンゴは、ちょっと下手っぽいけどカッコいい。

 そして、敵とのバーチャル・ゲームマシン勝負で、打ち負かした敵から
「負けた時、君はわたしほど潔いのかな」
と尋ねられ、
「さあ、負けたことがないからわからないね」
と言い返すボンドのカッコよさ。うーん。また観返そう。
 (勢いあまって、USA版と日本版のDVD二枚持っています)

P.P.P.S.
 いくらでも追伸が続くが、もう一言。

 この映画で、わたしは、水都ヴェネツィアの問題を改めて知った。

 映画のラスト、ヴェネツィア(アメリカ人は発音できないからベニスと呼ぶが)で、恋人とヴァカンスを楽しむボンドは、いきなり最後の戦いに突入する。
 彼の最終決戦場は水都ベネツィアのとある家屋になるのだが、ここで、階上からマシンガンに狙われたボンドは、一階に置かれた黄色いタンクのようなものを狙撃する。
 するとそのタンクは妙な爆発を起こし、その衝撃で階上の敵はふっとばされるのだった。

 オープニングでも、多数の兵士に取り囲まれたボンドは、ガスボンベを狙撃して爆発させ、脱出しているが、そんな火を伴う爆発ではないし、それほど威力もない。

 んが、その途端、建物自体が斜めになり、水中に沈み始めたので、ハタと膝を打ったのだった。

 こいつは、工事用のガスボンベなどではなく、「浮き」なのだと。
 水没化激しい水の都では、このように多くの建物にウキがつけられているのだ。

 ただ、問題でもあり、ショックでもあったのは、映画の中で、何の説明もなく(普通は登場人物の誰かに、説明的独り言を言わせるはずだ)、ごく当たり前に浮きを撃ち、爆発させたことだ。

 それは、説明不要なほどに、ベネツィアの水没化は深刻だということを意味する。
 地盤沈下著しい(一説によると年2センチとか)この都が、すべてフローターの上に浮かぶようになるのもそう遠い未来では無いのかもしれない。

 だが、それは困る。ベネツィアへはまだ行ったことが無いのだ。

 わたしが、愛する女性と二人でゴンドラに乗って、船頭にカンツォーネを歌わせるまではどうか沈まないで欲しい。

 おいアメリカ、こんな映画作ってる暇ないぞ! 早く例の条約に批准しろ。

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