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2006年10月

2006年10月16日 (月)

自分は最強の生物なのだ キングコング


 デビュー当時の荒木飛呂彦が好きだった。
 武装ポーカーや魔少年BT(寺沢武一の説あり)、ゴージャスアイリンなんかもいい。
 でも、やはり一番好きだったのは「バオー来訪者」だ。

 今、読み返してもおもしろい。

 内容的には、ありがちな寄生生物モノなのだが、実際はその腰の位置が違う。

 1950年代の「20億の針」、それにインスパイアされた石森章太郎(当時)の「アンドロイドV」。
 よりブラッシュアップされた「寄生獣」、あるいは「ヒカルの碁」(あれは憑依モノか?)など、有史以来、寄生生物モノは数多く書かれてきた。

 だが、荒木が他の凡百な作家(言い過ぎか?)と一線を画しているのは、寄生生物に、「自分こそが地上最強の生物なのだ」という遺伝子レベルの自覚を与えたところにある。
 加えて、その矜恃(プライド)と、かけ離れた本体の姿、ゼリー生物でもエネルギー体でもない、ただの数ミリの小枝のような体をしているのがいい。

 自分自身は、数グラムの小石すら持てないちっぽけな生き物でありながら、そのプライドは地球より大きく重い生き物。

 おそらく彼は、いや、作中で近々増殖すると描かれていたから彼女か?あるいは雌雄同体か?

 まあいずれにせよ、「それ」は、死が間近に迫った瞬間でも、昂然と頭をあげて敵を睨みつけたまま逝くことだろう。




 キングコング(2005年:ナオミ・ワッツ版)を観た。

 当初、えー、キングコングって、あの「うっほ うほうほ うっほほー 大きな山をひとまたぎ……」だろう、後にグレイト・アクトレスになったジェシカ・ラング主演の国際貿易センターに登ったリメイク2はタコだったし……。

 その上、ナオミ・ワッツは「マルホランド・ドライブ」は観たが、続く「リング」「21グラム」などで、すっかり絶叫女優(懐かしい表現だ)化してしまっているから魅力薄だし……

 と、まるで観る気など無かったのだった。


 だが、キャストに、ジャック・ブラックの名を見つけて気が変わった。
 JBは好きな役者(ミュージシャン)なのだ。(イニシアルも良い)
 「スクール オブ ロック」でのコミックぶりはなかなかだったし、若き日のジャック・ニコルソンを太らせたような、魁偉な容貌もいい。

 目がつり上がっているのに太っているのも面白い。

 さらに、ヒーロー役として、エイドリアン・ブロディがクレジットされているのも気になった。
 だって、「戦場のピアニスト」の主役ですぜ旦那。あの虚弱体質っぽい、線の細い男が、キングコングでどんな役をするっていうんだ?

 まあ、ちょっくら観てやるか、と、観始めた途端……気がつくとエンドクレジットが流れていました。

 経過時間2時間58分(長い映画なんだこれが)。

 まったくもって一気に観てしまいました。

 結論から言えば、面白かった。

 ひょっとして今年最高の(自分が観た)映画かも。


 まず映像が良かった。スピルバーグがおそらくジュラ2で描きたかったのはこれだ、というような映像が目白押しだ。

 そのために、コングの生息する髑髏(ドクロ)島を、ロストワールドっぽい、徹底した古生物だらけの島に設定したもよかった(これは元からの設定でもあるけれど)。

 巨大恐竜の組んずほぐれつの争いも秀逸。

 ひと粒で二度おいしいとはこのことだ(焦点がぼやけるという言い方もできる)。

 だが、本作で目立つのは設定だ。なにより設定がうまいのだ。

 これまでのキングコングには、「うっほ、うほうほ」のアニメ版以外のものに、靴の中に入った小石のような違和感を常に感じていたのだ。

 それは……

「なぜ巨大なゴリラであるコング(今回の映画ではキングコングという呼称は使われていない)が、異生物である、パツキン美人にコイしてしまうのか」ということだ。

 もちろん、ある男が美しい野生のチーターに恋してしまうことはあるだろう。あるいは女が野生のゴリラに恋することも。

 だがそれは一般的ではない。

 数多いノーマルな中の、ごく少数の特殊な人々だ。

 地球上で、最後の一匹になった巨大ゴリラのコング(映画にはそういった表現がされている)が、よりによって異生物愛好者だ、なんてことがあるのだろうか。

 また、コングは、原住民によって、これまでに何度も生け贄を捧げられてきたのだ。

 原住民の女性(だろうおそらく)はダメで、金髪ビジンだけが、お眼鏡にかなうというのはいかがなものか。人種サベツか?

 長らくそう思っていたのだが……

 今回の作品では、見事にその答えが出されていた。
 そしてその伏線は、上映開始後一分で始まっている。

 すばらしい。



 勿体をつけずに言ってしまうと、ヒロイン、ナオミ・ワッツは、ブロードウェイ(もちろんオフのほう、場末のコヤ)のボードビリアンで、コメディエンヌなのだ。

 つまり、舞台でコミカルな動きをするアクロバット芸人。
 本人はブローデウェイの役者志望なのだが、大恐慌下のニューヨークでは理想では食っていけないから、口に糊するために仕方なくやっている。

 しかし、結局、この芸が彼女を救うことになる。

 正に芸は身を助ける、だ。

 生け贄にされ、誘拐されてコングの巣に連れてこられた彼女は、意を決して、コングの前でコミカル・アクロバットを演じる。

 すると、孤独な島の王者は、その「おかしな」動きをする小動物がすっかり気に入ってしまうのだ。


 先ほど、コングの巣、と書いたが、そこは島でも一番高い山にある、心地よい風が吹く景色の良い台だ。

 しばらくして、ここで、心を通わせた二種類の生き物が並んで腰掛け、沈む夕日を眺めるシーンがいい。

 化け物揃いの孤島で、王者として君臨する最強の生物の孤独がはっきりと伝わってくる。

 この風景を、もう一度、異郷で見たいがために、コングは、遙かに高い場所、エンパイア・ステートビルに登るのだ、という素晴らしい伏線になっている。


 アクションについも、コングが戦闘で足をうまく使って闘うところがいい。

 恐竜と闘いながら、ナオミを守り、かつ逃がさないために、彼女を手で掴んで恐竜を蹴り、放り投げて足で掴んでは恐竜を殴る。

 まさに、サルのような反射神経だ。


 コングの身長が7メートルほどというのもいい。
 「登ってみて、人間がもっとも恐ろしさを感じるといわれている高さ」を身長として持つコングが、ヒロインを手で掴むと、ちょうど大魔神が悪党を手で握りつぶす時と同じ画になる。

 大きすぎず、小さすぎず、ちょうど恐ろしい大きさだ。

 ナオミが、激しいアクションで首がガクガクになりながらも、そこはスタンダップ・アクションの芸人だから大丈夫だ、と納得できるのも良いところだ。

 あと、虚弱野郎ブロディが思ったより筋肉質で、あのこけた頬からは想像できないアクションをするのも、意外性があって面白かった。


 スポンサーから詐欺まがいに資金を調達したため、なんとしても映画を完成させないと破滅するが故に、どんな苦境になっても手回しカメラを回し続けるJBも良い味を出している。

 だから、後にカメラが壊れてフイルムがダメになってしまった彼が、コングの捕獲に乗り出すというのも、ストーリー的には無理が無いのだ。

 なんとしても、金になるものを持ち帰らないと身の破滅なのだから。


 だが、映画の構成から考えて、コングはNYに連れてくるべきではなかった。

 コングは、あの島にいてこその孤独な王だったのだ。

 第一作の眼目が「都会で暴れる巨獣」だったから、仕方がないのだろうが、今回は、無理にNYに連れてくる必要はなかったような気もする。

 島での、巨大獣同士の戦闘に迫力がありすぎて、都会で人間がパチパチ撃ってくる機関砲による戦闘など、致命的かもしれないが、おもしろくも何ともないからだ。

 まあ、とにももかくにも、キングコング。

 機会があれば(ぜひ)観てください。



 私のおすすめ:
DVD キング・コング (2005年度製作版)リミテッド・バージョン ...

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