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2006年3月 2日 (木)

う〜う〜でびーる、やさしい悪魔 (マクスウェルの悪魔・ラプラスの悪魔)


 SF作家のラリィ・ニーヴンは、魔法とは、その空間に充満した、目に見えないエネルギーを利用できる能力であるとし、一連の魔法世界ものを小説にした。

 その物質は使えば使うほど消耗し、やがてFOSSIL FUELのように使い切ってしまうことになる。

 結果、魔法エネルギーを使って不老不死を保っていた魔法使いたちも寿命が尽き、徐々に歴史から消えていく。

 いくつかある「魔法使い(ウォーロックあるいはその派生物語)もの」の中でも、ある魔法使いが、世界中で魔法が使えなくなっていくことに疑問と恐怖を感じ、ある実験を行った結果、魔法エネルギーが有限であるという恐ろしい結論にたどり着くエピソードが特に秀逸だ。

 個人的には、これを遙かに低次元で表現したのが、「鋼の錬金術師」のようなジャパニーズ魔法ものだと思っているのだが、おそらくアイデアの副次利用主体の漫画家たちを『無情の月』の作者と比較するのが間違ってるのだろう。

 その「魔法もの」のひとつに、こんなエピソードがある。

 夏の暑い盛りに、ある魔法使いが他の魔法使いを訪ねたところ、彼の住む洞窟がひんやりとして過ごし易いことに気づき、いったいどうやっているのだ、と尋ねる。

 なんだか、泣いた赤鬼みたいな展開だが、まあ、そんなシチュエーションなのだな。

 訊かれた魔法使いは、洞窟の入り口に座り込んでいる、青白い顔をした貧相な小男を指さし、
「あの男に低級な魔法を教え、それを実行させているだけなのだ」と答える。

「彼が?それは便利だな。だが、彼はいったい何者なのだ?」

「名前を『マクスウェルの悪魔』というんだ」

 まあ、これが話のオチなんだが、『マクスウェル〜』がわからないとこの話は何も分からなくなる。


 科学界には、昔から何匹?かの有名な悪魔が生息している。

 そいつらのことは、いったん覚えたつもりでいても、いかなる魔法がかかっているのか、しばらくするとごちゃまぜになって忘れてしまうので、この際、備忘をかねてまとめることにした。

 その昔、(古典)科学の学者たちは、(そのころ)物質の最小単位であった原子や、その集合体の分子が持つエネルギー(つまり熱振動や運動エネルギー)を、ためつすがめつ理解するための思考実験のひとつとして、原子分子のひとつひとつに手を加えることのできる悪魔を考え出した。

 その悪魔の名前を、創造者の名前をとって、マクスウェルの悪魔、ラプラスの悪魔と呼ぶのだ。

●まずは一番有名どころのマクスウェルの(知的な)悪魔

 これは、ジェームズ・クラーク・マクスウェルが考え出した存在で、ラプラスより厳しい条件が必要だ。

1.まず均一な温度の気体で満たされた容器を用意する。
  (温度は均一でも個々の分子の速度は均一ではない)

2.この容器を小さな穴の空いた仕切りで2つの部分 A、B に分離し、個々の分子を見ることのできる「存在」がいて、この穴を開け閉めできるとする。
  存在は、素早い分子のみを A から B へ、遅い分子のみを B から A へ通り抜けさせるように、スバヤクこの穴を開閉する。

3.この過程を繰り返すことにより、この「存在」は仕事をすることなしに、 A の温度を下げ、 B の温度を上げることができる。

 だが、これは熱力学第二法則と矛盾する。
 何のエネルギーも必要とせずに、容器内に温度差を生じさせることができるのだから。
 つまりエントロピー(乱雑さ)を減少させることができるのだな。
 これを認めれば永久機関が可能になってしまう。

 先の魔法使いが男にさせていたのは、運動速度の速い分子を追い返し、遅い分子を洞窟にいれるという作業だったというわけだ。

 この悪魔を葬り去るのに、近代物理学はかなり苦労をした。

 要は、悪魔が分子を区別するときに何らかの「仕事」をしていることを言えば良い……のだが、これがなかなかできなかった。

 1951年に、レオン・ブリュアンとデニス・ガボールが、悪魔が分子を観測する過程で(光を使うとした)、エネルギーを使うことを示し悪魔を葬り去った……かに思えたが、1973年、チャールズ・べネッが、熱力学的に可逆な観測が可能であり、こうした観測においてはブリュアンらが指摘したようなエントロピーの増大(つまりエネルギー消費)が必要ないことを示すと、悪魔は再び甦ったのだった。
 
 このように、マクスウェルの悪魔は、かなりダイハードなヤツではあったが、ついに1982年、マッチポンプ野郎のベネット自身によって葬り去られることになったのだった。

●その経緯
 1961年、IBMの研究者であったロルフ・ランダゥアーによって、コンピュータにおける記憶の消去が、ブリュアンの主張した観測によるエントロピーの増大と同程度のエントロピー増大を必要とすることが示された(ランダゥアーの原理)。

 ベネットは、ランダゥアーの原理を使って、エントロピーの増大は、観測を行なったときではなく、むしろ行なった観測結果を「忘れる」ときに起こる、としたのだった。

 悪魔が分子の速度を観測できるとしても、観測した速度の情報を記憶する必要がある。
 悪魔が繰り返し働くためには、窓の開閉が終了した地点で、次の分子のためにその情報の記憶を消去しなければならない。

 情報の消去は、前の分子の速度が、速い場合も遅い場合も、同じ状態へ戻す必要があり、熱力学的に非可逆な過程である。

 このため悪魔の振る舞いを完全に完了させるためには、エントロピーの増大が必然のものとなる、というのがベネットの考えだった。

 こうして、「忘却とは忘れ去ることなり」の名文句とともに、マクスウェルの悪魔はあの世に(ってどこだ?)旅だったのだ……が、いまだにこの問題は、科学者を惹きつけてやまないらしく、次々と新しい論文が書かれ続けているらしい。


●次に有名なラプラスの悪魔(Laplace's demon)

 個人的に、こいつはかなり眉唾な存在(って当たり前か)に思える。

 この悪魔は、主に物理学の分野で「未来の決定性」を論じる時に仮想される超越的存在で、世界に存在する「全ての原子の位置と運動量を知る」ことができるヤツらしい。

 思考実験とはいえ、こんな悪魔を簡単に想像できるところが、ヒト科のイマジネーションの凄さだな。

 まあ、場当たり的に分子シャッターを開け閉めするマクスウェルより、より知的度が高そうな悪魔ではある。

 そうすると、古典物理学によって、これらの原子の時間発展(存在位置)を計算することができるから、この悪魔は、この先世界がどのようになるかを完全に知ることができる、らしい。

 つまり、あらゆる未来を見通す「神の目を持つモノ」が、ラプラスの悪魔なのだな。
 (悪魔で神とは……しかも、尚悪いことに、こいつの依る道具は、ヒトの作り出した古典物理学なのだ)

 これは、ピエール=シモン・ラプラスが提唱した。(ただの思考実験なのに自分の名前を冠して!)

 未来が、現在の状態によって既に決まっているという「決定論」の思想を端的に象徴するものとしてね。

 もちろん、その後に登場した量子力学で、原子の運動、存在は、確率的に規定されることが示され、ラプラスの悪魔でさえも未来を完全に計算することはできないということになってこの悪魔もどこかに行ってしまったのだが。

 そうそう、違う方面からもこの悪魔は否定されている。

 個人的には、こっちの方が好みだが、情報処理の速度を考えて、たとえラプラスの悪魔が全原子の状態を把握していたとしても、その1秒後の状態を予測するのに1秒以上かかったのでは未来を知った事にはならないというのだ。

 そりゃそうだな。

 もっとも、多少なりともコンピュータに携わるものとしては、じゃ単純にラプラスの悪魔の処理速度をもっとあげればいいじゃないの、とも考えるのだが。



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