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2006年2月25日 (土)

レッドデータアニマル!カモン! 奈良筆








 わたしは自他共に認める悪筆なので、友人たちはおそらく誰一人信じはしないだろうが、意外に習字好きなのだ。

 実際、幼少の頃より、寺社仏閣体育館など様々な場所で書き初めを行ってきた。

 しかし、書類やノート書きは、昔からひどく苦手だった。

 字が妙な形になって思い通りに書けない。

 毛筆で書くのと、ボールペンなどで書くのとでは、まるで違った字になってしまう。

 わたしの場合、空中に筆を浮かせて書く毛筆と違い、ペン字の筆圧は異常に高くなる。
 おかげで、受験勉強していたころは特大のペンダコが出来ていた。(ダイガクニハイッテカラハソレガキレイニキエテシマッタケド……)

 縦書きと横書きでもまるで勝手が違う。

 これはわたしだけの問題では無いようで、長らく習字をならっている者でボールペン字を書くのが苦手という話はよく耳にする。

 考えてみるに、線に太さがなく、トメ、ハライもはっきりと出せないペン字は(まして横書きなら尚更)毛筆で字を練習してきた者には辛い。

 字の太さでなく形だけで文字の美しさを出さねばならないからだ。

 だから、というわけではないが、わたしは、高校の頃からオリベッティ製のタイプライター(機械式)で英文タイプを練習し、ワープロが普及するにつれてそれに切り替え、書く文章のほとんどをタイプ打ちしてきた。

 と、まあ、ここまでは前置きで、ここからが本題。

 先日、奈良県奈良市の「なら工芸館」で、奈良筆(ならふで)の製作体験ができるというので出かけてきた。

 奈良市は、他の古い街と同様、かつての洛陽を手本とした都だけあって碁盤の目のように道路が走っている。

 JR奈良駅を降りると、まっすぐ春日大社の方、つまり東に向かって、緩やかな坂道が何本も延びている。
 それらのうちの駅正面から南へ五本目の道を、東へまっすぐ歩いていくと、坂を登り切ったあたりで左側に「なら工藝館」があった。

 所要時間約20分。

 なら工藝館は、最近建てられたばかりらしく、コンクリートの打ちっぱなしに大きな壁一面のガラスが嵌っている、明るく清潔な建物だ。

 建物内部には、一階に地方作家の奈良扇や鹿の木彫を展示する常設展示室や、それらの販売所、そしてレンタル可能な個人展示コーナー「ギャラリー阿字万字(あぜまめ)」がある。

 建物に入ったところにある掲示板を見ると、今回は、阿字万字を「奈良毛筆共同組合」が借りて体験学習させてくれるらしい。

 二階は織物の研修室になっているらしく、気になってちょっと上ってみると、これも大きなガラスを通して、数人の女性が昔ながらの機織物(鶴の恩返しでつうが使っていたようなものです)に精を出していた。

 受付の男性に「ならふで体験」だと告げると、先に立って案内してくれた。

 細い通路を通って、阿字万字に入る。

 二十畳ほどの壁一面が、ガラス張りになった明るい部屋だ。

 部屋は、ふたつのコーナーに別れていた。

 入ってすぐのところに、一段高くなった畳の台が置かれ、その上に座机が二つ乗せられている。

 その向こうには、会議用の机がいくつか置かれ、上には竹製の筆立てに数多くの筆が立てられている。

 手前の座机で奈良筆の製作体験をし、奥の机で筆作家の手によって製作された奈良筆を試し書きしてから、布海苔(ふのり)で固める作業をするらしい。

 気に入った筆は、中太字用千円、細筆五百円で購入することができる。
 試し書きして気に入った筆を、自分で布海苔で固めて持って帰ることができるのだ。

 価格も、一般に店先に並んだ時の三分の一程度とリーズナブルになっている。

 ところで「ならふで」とはいったいどういうものか?

 だいたい、奈良で、こういった特色ある筆を作っていることさえ、わたしは知らなかった。

 墨については、数多くの本物の蝋燭(ローソク)に被せものをし、それをこそいで煤をとる高級なものがあるのは知っていたのだが。

 聞くところによると、奈良筆は、イタチ、狸、リス、テン、犬、羊など、剛柔様々な材質、長さを組み合わせ、よく混ぜ込んで一つの筆先にした筆なのだという。

 こういった製法をとる筆は、奈良筆以外にはひとつあるだけで、他は、中国産のものを含め、混ぜ込まずに少ない種類の毛を合わせて作るものらしい。

 筆をつくるための「天然」材料は、近年、ワシントン条約のおかげで材料が手に入りにくくなってしまったとのことだったが、なんとか今も、奈良筆は生き延びている。

 案内されて入っていくと、阿字万字は閑散としていたが、ひとりだけ先客がいた。

 時刻は平日の午前11時だから無理もないが、その客は畳に正座し、筆先を作りながら熱心にノートを録っていた。

 取り囲んで眺める職人の一人から、彼が毎日新聞の記者だと紹介される。

 この人物とは縁があったようで、数日後に飛鳥でも再会することになるのだが、それは他の項に譲るとして、彼は、おそらくわたしが今までにみ中でも一、二を争う不器用な男だった。

 筆先を指で挟んで整える、それがなかなかできない。
 道具を使って混毛を押し伸ばしていく、その行為ができないのだ。

 見つめる職人たちが、見かねて何度となく手を出し、そのたびに毛の塊は筆先に変身するのだが、彼が触れると再び毛の塊にもどってしまう。まるでマイダス王だ。


 長い時間が過ぎ、わたしの番になった。

 実際に筆を作ってみると、これが(あたりまえだが)なかなかに難しい。
 記者の手際の悪さを笑えない。
 刃びき(刃先をつぶして切れなくした)の小刀を用いて、5〜6種類の長さも違う動物の毛をぬらし、もみ、ほぐし、そして櫛を入れて、まんべんなく混ざるようにしていく。 難しいが面白い作業だった。

 筆先作りが終わると、今度は布海苔つけを行った。

 本当は、自分で作った筆先を持って帰りたかったのだが、数日乾燥させた上に後処理までしなければならないと言われ、諦めたのだ。

 先ほど書いた、会議机の上で竹の筆立てに立てられている大小様々な筆を手に取り、水に浸して字を書いてみる。
 紙は、特殊な水筆専用のもので、水で黒く字が浮かび上がり乾くと消えるものだ。

 実はこれはわたしも持っている。服が汚れないし、墨をする必要もない。筆の手入れも楽なので重宝する逸品だ。

 筆には、今日、阿字万字に着ている職人達の名前を書いたテープが貼られていた。
 
 つまり、誰が作った筆なのか明記して、責任販売?しているのだ。

 結局、わたしは中筆「福原」氏、細筆「田川」氏のものを選んで布海苔をつけ、持ち帰ったのだった。

 布海苔は文字通り海苔から作られる糊で、筆を運搬、保存する際に筆先が乱れないようにするためにつけるのだということだ。

 細筆は一日で、中太筆は三日ほどで乾燥するので、その後、水で筆降ろしすれば良いらしい。

 五日ほど経って、水筆用紙で初書きしてみた。
 太筆の方は、なかなか感覚が戻らず、返しやトメが決まらなくて、うまく書けないが、細筆は思い通りの文字が書ける。思った通り、素晴らしい書き味だった。 

●追加
 あ、それから気がついたことをひとつ。
 長らくならまちの方へは行かなかったが、今回ぶらぶらと歩いてみると、町並みが京都の北山のように、いや、そこまではいかないな、円山野外音楽堂から清水にかけた、あのあたりに近い雰囲気になっていて驚いた(写真参照)。
 聞くところによると、東京から、ならまちの旧家を買って移り住む老夫婦などが多いらしい。

●さらに追加
 もちいどの商店街を出たところで、知る人ぞ知る「テレビチャンピオン餅つき王」二連覇中の「中谷堂」の店舗をみつけた。(写真参照)
 すぐさまアンコロ餅を買って食したのは言うまでもない。
 これがまた美味かった。
 残念ながら、店先で、例の「驚天動地音速ヅキ」をこの目でみることはできなかったが。

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