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2005年11月 6日 (日)

隠し剣 鬼の爪


 これは「男はつらいよ」の山田洋次監督の最新作である。
 同じ監督、スタッフによる前作「たそがれ清兵衛」の方は、もうひとつ良くなかったが、この作品は良かった。

 観始めて、あれ、と思う。
 これは「鬼の爪」ではない。
 これでは、まるで……まるで「雪明かり」だ、と思ったら、案の定、クレジットには「隠し剣 鬼の爪」「雪明かり」とあった。

 どうやら前作同様、藤沢周平の二作品を融合させて作っているようだ。

 観ているうちに、何度か登場人物の言動に胸を衝かれる場面がある。

 そう、この映画には、今の西洋化された日本にはなくなった漢字熟語二文字「健気(けなげ)」が息づいているのだ。

 「健気さ」
 それは、自分の能力、適性の多寡を知らず、ただ、どうすれば得か、何を主張すれば我が儘を権利と拡大解釈して人々(大人たち)が折れるかを、早い時期から習得する現代の子供たちには、すでに無くなってしまった態度だ。

 まず主人公の片桐宗蔵を演じる永瀬正敏が良い。
 朴訥(ぼくとつ)として実直。そして強情。

 永瀬と山田監督の接点は何だろう、と考えたら、そうだった、彼は、山田監督の「息子」に出ていたのだった。

 他にも寅さんの甥っ子吉岡秀隆や、さくらの倍賞千恵子など、多くのいわゆる山田組が出演している。

 わたしが「たそがれ〜」を気に入らない理由のひとつとして、最初と最後に、ストーリーとしては蛇足としか思えない、岸恵子が登場することがある。いかにも『大女優』然とした、その思い入れたっぷりの大根演技、ナレーションには辟易する。

 今回、年代、キャリアとも、岸と遜色ない倍賞智恵子は、主人公の母役として、一瞬登場した後、ただちに退場して二度と出てはこない。

 結果として、映画は、お互いの愛情をうまく表現できない、不器用な若いふたりを主人公として、一瞬も視線をぶらさないことになる。 

 まっすぐで分かりやすい映画なのだ。
 
 ついで、ヒロインの松たか子がいい。

 「たそがれ〜」では、ヒロインの宮沢りえが評価され、貴乃花事件以来の芸能界復権を成し遂げるジャンピング・ボードとなったのだが、個人的には、やせぎすな彼女は、あの役をやるべきではなかったと思っていた。
 原作通りの「病弱な妻」役ならあれで良いだろうが、あの脚本では、ちょっと違う、と。

 それに対して、松たか子演じる「きえ」の優しげな声で語られる山形弁は、持って生まれた彼女の下ぶくれの顔と相まって、よく気のつく女中(ああ、時代劇ではこの言葉が使えるのだなぁ)役にぴったりとはまりこんで心地よい。

 物語の最後に、家、身分、家禄、すべてを捨てた宗蔵から、一緒に蝦夷に行かないかと誘われた彼女が、「それはご命令ですか」と尋ねるシーンがある。

 ここが演じる点で一番難しいシーンだろう。

 このシーンに至るまでの二人の気持ちの機微については、様々な伏線が張られているから、単に、もと主人が、無理矢理に若い娘を荒れた土地へ連れて行こうとしているのだ、などと勘違いする観客はいないはず。

 とはいえ、ここでの演技を間違えてしまうと、映画の後味がまるで違ったものになってしまう。

 主人としてのみ宗蔵を捉えてきたきえは、「ご主人様」から恋の対象へと宗蔵への気持ちを切り替えなければならない(もちろん、本心では彼女は自分の気持ちに気づいている)のだ。

 おまけに、家を家族を捨てて蝦夷地に行くのだから、なまなかなことでは決断できるものではない。

 だから、彼女は、宗蔵に後押しをしてもらうために言うのだ。

「それはご命令ですか」と。

 そうじゃない、これは俺の希望だ、お前も同じ気持ちではないか、と心で思いつつ言葉にならない宗蔵は、きえの裏の気持ちも読み取って、「ああ、命令だ」と言い放つ。

 それを受けて、きえは言う。

「命令なら仕方ないです」

 そしてはにかむ。

 なぜなら、これが彼女の愛の許諾の言葉なのだから。

 なんとも無骨で純な会話ではないか。

 これが「男はつらいよ」なら、狂言回しである寅二郎がいて、「じれってぇなあ、もう」と走り回ることになるのだが、この映画では、不器用な二人は不器用なりに、自分たちだけで未来を模索しなければならないのだ。

 このシーン、完璧とは言えないまでも、二人の役者は、かなり上手くこなしているように思えた。

 結果、しみじみとした余韻を残す美しい映画として「鬼の爪」は完結する。

 次回は是非、このスタッフで、藤沢周平作品の、同じ「隠し剣シリーズ」である「女人剣さざなみ」か、シリーズ外ではあるが、これもわたし好みである「泣くなけい」あるいは「鰯雲」を映像化してほしいものだ。

 特に、「女人剣〜」は、頼りないダメ亭主の窮地を、いつも亭主から、その容貌ゆえに「不細工な妻」と公言されている天才女剣士が、その剣の技を使って救う物語であるから、女性上位の昨今風潮に合って作品かしやすいのではなかろうか。

 最後になるが、今回、音楽は担当したのは、世界のトミタ、富田勲氏であるが、哀切感ただよう素晴らしい楽曲が、物語を盛り上げるのにひと役もふた役も買っている。
 前回、「たそがれ清兵衛」では、井上揚水の歌が使われていたが、こういった時代劇では、歌よりも交響曲の方が合うように思われる。

p.s.
 宗蔵が師匠から教わる剣は、隠し剣シリーズを読まれた方なら周知の事実、「邪剣 竜尾返し」だ。
 つまりこの作品は三作品の融合ということになる。



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