帰去来 神の目で地球を見る Google Earth
先日、オランダの知人が日本に来て三日間泊まっていった。
その彼が教えてくれたのが、このGoogleEarthだ。
これは、衛星写真と、マイクロソフト・アトラスを組み合わせたようなソフトで、地球各地の衛星写真を、その重要度によってディテイルの差はあるにせよ、くっきりと見ることができるソフトなのだ。
ズームアップは無段階。
細かいデータは、その都度ネットよりダウンロードして表示するために、表示性能の割にソフト本体はは小さく20メガバイト程度だ。
長野の山奥などは解像度の荒い写真だが、東京都内、大阪市内、京都御所付近などははっきりと家々の屋根や車まで識別できるほどだ。
これは、鳥の目、いや神の目といってもよいソフトだ。
今はベータ版だから無料で試用できる。さっそくあなたも神の目を持とう。
ダウンロードは下から
http://earth.google.com/
彼はアムステルダムを表示させ、くっきりと写った家々を指し示しながら、この店で散髪をしてきたのだ、と自慢げだが、わたしの目には、ただのスポーツ刈りにしか見えなかった。そこは長身碧眼のオランダ人だけあって、そこそこには似合っているのだが。
彼が寝たあと、再びソフトを起動させ、何気なく今までに訪れたことのある場所を観ていると、映像が刺激となって、忘れていると思っていた記憶が次々と甦ってきた。
しかし、中にはまったくの空白地帯もある。
たとえば、英国では、はじめ、自分でバスを乗り継いで、西南端のランズエンドやマラザイアンを移動したため、その辺りの地形はよく分かるのだが、旅の後半には、当時、英国在住だった知人の車で、コッツウォルズやストーン・ヘンジ、ドーバー城に連れて行ってもらったので、ひとつひとつの場所の記憶は鮮明なのだが、それが英国のどこにあるのかがほとんど分からなかったのだ。
が、今回、ネット検索とこのソフトのおかげで、自分がどこへ行ったのかを再確認することができた。
USAなども、ハリウッド高校横の安ホテルや、ロックフェラー・センター前の廉価ホテルさえくっきりと表示されていて、当時のことが懐かしく思い出される。
一週間近く滞在したそのホテル、たしかクロスロード・ホテルといったと思うが、三日目の夜中に火災報知器が鳴り、ロビーに行ってみると、寝間着姿の客と、酸素ボンベを逆に背負ったような大男の消防隊員たちが押し問答をしていた。
結局、火災報知器は誤報だったようで、しばらくして、消防隊員たちは帰って行ったが、今思うと、おそらく彼らの多くは、9.17のテロで命を落としているのだろう。
このソフトには、自分でブックマークをつけることもでき、ツアーボタンを押すと、ブックマーク・リストの順に、各地を移動してくれる。
この移動の仕方がふるっている。
一瞬で成層圏に飛び上がり、ぐうっと地球を回転すると、おもむろに下降し、ぴたりと(当たり前だが)次の地形を表示する。
縮尺(というか表示高度)も記憶されているのか、毎度、同じ大きさでビルなども表示される。
国内外を問わず使える機能なので、ぜひ一度試してみることをおすすめしたい。
ところで、いろいろと観た中で、一番、インパクトが強かったのはインドだった。
生まれて初めての海外、しかも、長期ひとり旅で、無計画だったこともあって、今もその記憶は生々しいからだろう。
いや、それだけでは正確とは言えない。
「帰去来」は、読み下しで「帰りなん、いざ」と読む。
陶淵明の作で、官を辞して帰郷し、自然を友とする田園生活に生きようとする決意を述べたものだが、転じて、流れ出た土地を辞し、古里に帰るときに用いる言葉となっている。
だが、デリーのラージ・ガート(ガンディ火葬の地)の衛星写真を見た時、痛烈に感じたのは、この言葉だった。
日本生まれで日本育ちのわたしが、こんな気持ちになるのは奇妙なことだ。
なぜ、こんな気持ちをインドに、ラージ・ガートに、ヴァラナシに対して抱いてしまうのはなぜだろう。
近年、インドが、アジアに冠たる工業国家になりつつあるのは知っている。
わたしが訪れた十数年前とは、多くのことが変わっているだろう。
テレビは多くの家庭に普及したに違いない。停電の回数は減っただろう。
だが、狂犬病被害の件数など、変わらないこともまた多くあるに違いない。
GoogleEarthのおかげで、また行きたくなってしまった。
国内旅行も、その他の国々にも楽しくいろいろな思い出がある。
だが、彼の国は特別なのだ。
他の場所は風景を観にでかける。
だが、アジア旅行の基本は、人間を観にでかけることだ。
そして、インド・ネパールには最高の人間が揃っている。
「帰去来」
そう呟いて、わたしは今日もGoogleEarthの映像に見入るのだった。
あれほどの不安感と孤独感にさいなまれながら、ひとり荒れた道を歩いてたどり着いたラージ・ガートや、オンボロ・バスを乗り継いでやっと到着したサルナートが呆れるほどあっさりと画面に表示されることに、少しばかり釈然としない気持ちを抱きながら。
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