愛・地球博9.6(その1)
9月6日
●午前5時前
あらかじめ、インターネットで予約をしておいた八草駅前パーキング到着。
すでにパーキング入り口から二十台ほどが並んでいた。
そのまま一キロほど離れた北ゲートに向かい、叔母たちを降ろす。
ゲート入り口の近くには簡単な柵で囲まれた駐輪場があり、およそ100台ほど収容できる大きさだった。
再び八草駐車場に戻ると、すでにパーキング・ゲートは開いており、いまは三台ほど車が並んでいるだけだった。それに続いて入る。
駐車場内部は舗装されていないものの、砂利が敷かれ、ロープで区画が示されていた。
指示された場所に車を停め、郵送されてきた封筒をダッシュボードの外から見える場所に置き、折りたたみ自転車を組み立てると、北ゲートに向かった。
わざわざ自転車を組み立てるのは、リニモの始発がまだ運行されていないからだ。
八草駅から北ゲートまでは、リニモの駅にしてふた駅。
途中に丘を越えねばならないため、段変速なしの折りたたみ自転車では少々苦しい。
時刻は5時過ぎ。
だが、すでに八草から北ゲートまでの歩道には、ぱらぱらと人影が見えていた。
それを右に左に抜き去ってゲートに向かう。
いくつかある入り口で、特に北ゲートを選んで並ぶのは、ゲートをくぐって左下に企業間エリアがあり、一番人気の日立館の入館予約チケットがパビリオン前で配られているからだ。
先ほど見つけておいた駐輪場に自転車を停め、地下道をくぐって北ゲートに出る。
そこは北ゲート駅の出入り口でもあるが、まだ始発が到着していないので、人影は少ない。
時計を見ると、時刻は午前5時45分ほどであったが、すでに25個あるゲートの前には十五人ずつほどが並んでいた。
以来、待つこと3時間。
その間に、我々の前にひとりで座っていた女の子のボーイフレンドが七時頃にやってきて、それを非難する前の兄ちゃんと喧嘩になりかかる。
幸い、お互いのガールフレンドが男どもをなだめ事なきを得るが、事態が落ち着くと、すぐに、この遅れ男は、不届きにもメンチカツ・バーガーを担いできた巨大なズダ袋から取り出すと「朝からキッツいわ」と言いながら、あたりに脂っこい匂いをまき散らすのだった。
●午前8時30分
徐々に、ゲート前に警備員が並び始める。
そうこうするうちに、警備員長らしき男が、ゲートのすぐ内側で、大声で「ありがとうございました」「いらっしゃいませ」などと掛け声の練習を始めさせた。
パフォーマンスの一種だろうが、一声あげるごとに、待ちくたびれている入場者から拍手が起こるのが面白い。
鈍足の台風がゆっくりと東行しているために、日差しはほとんどなく過ごしやすい。
そのため、空を見上げると、いかにも台風特有の、くっきりとうねりの見える灰色がかった雲が空を埋め尽くしている。
●午前8時35分
時折、雲が途切れて、日差しが見えるようになってきた頃、警備員に促され、椅子をたたみ一列に並ぶ。
警備員が拡声器を使って、今後の予定を伝え始める。
警護センサーは、空港などのレントゲンタイプではなくて磁気タイプ。
だからフィルムなどの感光を心配する必要はない。
さらに、人間のみをチェックするため(手荷物は、すべて警備員が実際に鞄の中をのぞいて確かめる!)、身につけた金属類は、はずさなければならない。
金属の総量によって反応するかどうかが決まるため、指輪、ピアス、ネックレスなどは大丈夫だが、ベルト、巨大な金属アクセサリ等は反応するらしい。
開門の時刻が近づくと、警備員が前後に移動しながら、早く検査をすませるために、カバンのチャックをすべて開け、金属関係はカバンの中にいれるように支持をする。
どうにも心配のなのは、先ほど遅れてやってきた男が持っているズダ袋だ。
これは巾着方式で上にしか口がない袋で、いかにも検査に手間取りそうな感じなのだ。
8時45分。ゲートが開き、一斉に検査が開始される。
検査を受けた人々が会場内に走り込む。
この場合、慌てるな、という係員の声は無意味だ。
ゲートの中でも、もっとも左側、つまり企業間に近い側の列が、異様に早く検査をすませている。
どうやら、それは期間パスを持っている人々の列であるらしい。
期間中何度でも来ることができるから検査なれしているのだ。
そして、我が列は、ああ、案の定、前の割り込み男のズダ袋の検査がなかなか進まず、どんどんと他の列に先を越されていく。
やっと自分の番になった。
あらかじめベルトまで外していたために、さすがに検査が早い。
荷物を受け取ると、ずり落ちそうなズボンを引っ張り上げながらゲートを走り抜け(良い子は真似しちゃだめだよ)た。
右手の階段に向けて走る。
すぐに、ビルの間が割れ岩盤が露出したような外観の日立館が見えてくる。
その下にはすでにかなり長い列ができている。
老若男女、千差万別の人々が押し合いへし合い、鉄作で区切られた待ち通路に並んでいる。さすがに人種はほとんど日本人である。
「ひとりが全員の券を持って並んでも駄目です。全員で並ばないと」という警備員の言葉に不安感が高まる。
あまりに全力疾走してきたために、あとのふたりが追いついて来られるとは思えなかったのだ。
すでに、後ろにはびっしりと人垣ができている。
ふたりが、それを押しのけて近くまでやって来られるとは思えない。
他の人々も不安になったのか、押し合いながら携帯電話で連絡を取り合っている。
その間も、行列は間欠的にどっと前に進む。
意外なことに、もっとも行列が不安定になるコーナー部分の内側で、頑丈な鉄柵がなくなり、プラスチック・パイロン(コーン)が置かれていた。
押された拍子にパイロンを蹴り倒し、それを踏みつけてこけそうになる人もいる。
このあたり、ディズニーやUSJという良いサンプルがあるのだから、もっと工夫が必要ではないか。
携帯電話でふたりに連絡を取ると、つながったもののすぐに切れてしまった。
どうしようかと思っていると、すぐ近くで声がした。
振り返ると、信じられないことに、5メートルほど後ろ、人の波にもまれて後から来たふたりの顔が左右に揺れている。
そのとき、係員が、
「予約券を別々にもらって、それが違う時間だったら、そのどれかの時間にパビリオンに並べば良いのです」
と叫びだした。
さらに続いて、
「慌てなくても、今並んでいる人は、全員券がもらえますよ」
現金なもので、これで殺気だった列の雰囲気が一度に和やかなものになった。
その後、すぐに緑色のちゃちな印刷の予約券を受け取ることができた。
ふたりを待つ。
予約券は10時〜10時半のものだった。
他の二人も同時間だったため、好きな時間を選ぶことはできなかったが、とりあえずは目標の予約券を手に入れることができたのだ。
●9時20分
合流した後、次はどこに行こうかとあたりを見回すと、売店を挟んで向こう側の三井東芝館が、予約チケットのあたりは混んでいるものの、ダイレクト入場する列がガラ空きに見えたため、走ってそちらに向かう。
このことから分かるように、パビリオンには、すぐに入場する列と、予約券をもらう列があるのだった。
係員に尋ねると、案の定、待ち時間なしで9時35分〜10時15分の回(本日初回!)に間に合うとのことで、これに入場することにする。
我々が最初のはずなのに、説明ビデオを見せられたりして、15分ほど待たされる。
しかし、おかげさまで、このパビリオンがどのような催しをしているかを理解した。
スキャン装置を使って取り込んだ観客の顔を、映画の中で貼り付けて使用するらしい。 あのユーゾー加山キャプテン(このCGからして全然似ていない)の下、巨大宇宙船の乗組員になって、我々自身が冒険するのだ。
誰がどのクルーを演じるかはやってみないと分からないらしいが、後で考えたら、小さい子供が一番良い役を演じていたから、スキャン操作する係員の最良で誰を割り振るか決められているようだ。
しばらくして、五つ並んでいるドアが開き、部屋に入れられる。数えてみると一部屋25人ずつだ。
そこは、5人の人間の顔を、一度にスキャンできる機械のある部屋だった。
後で知ったところによると、このような部屋が、ぐるりと建物を取り巻いて数十もあるのだった。
25人が二回ずつ顔をスキャンされたあと、隣の部屋に通される。
そこは、こじんまりした映画館だった。
そして映画が始まる。
最初に登場人物の紹介があり、そこに、さっきスキャンされた自分の顔を貼り付けたキャラクターが登場する……はずだったが、最後まで自分の顔がどれなのかわからなかった。
連れの二人は、はっきりと分かるのだが、わたしが何者なのかさっぱりわからない。
どうも、人の顔にはCG化向きの顔とそうでない顔の二通りがあるようだ。
映画の内容も、少しハードSFかつエコロジー寄りすぎて、よくわからなかった。何より面白くない。千住明の音楽は良かったが。
三井・東芝館、これは映画の内容はともかく、問題がもう一つあった。
それは時間だ。
10時15分に終わるということは、日立館の予約券使用時間終了まで15分しかないということだ。
まわりの人々も、日立館を予約した人たちばかりのようで、映画を待つあいだも、上映の最中も、小声でそれを心配しているようだった。
皆、映画の上映が終わるなり、小走りにパビリオンを出て、再び売店の横を通って日立館に向かった。
●10時20分
予約をしたといっても、やはり少し並ばねばならない。ほっとして周りをみると、さっき映画で共演した人たちばかりだった。
この10時20分の時点で、日立館の予約券は無くなっている。
あとは並ぶしかないのだ。
日立館では、まず名前をきかれ、写真を撮られた。
次に、ちょっと大きめの機械を渡されて、最初の部屋に入る。
そこでは、燃料電池をバッテリーとした小型端末(これがまたデカい。女子高生の弁当より大きいくらい)で、レッドデータ(絶滅危惧種)の動物の紹介を受けるのだ。
ユビキタス社会の実現、というお題目は立派だが、何をしたいのかよく分からない。
うちの観にノートコンピュータなみの大きさの端末ならば、もっといろいろ出来てもよいのではないだろうか。液晶画面も小さいし。
まあ、噂の燃料電池を、透明ケースを通してゆっくり眺められたのは良かった。
動物のデータを読んでいるうち、あまり面白くなかったためか、三角椅子3つ分の重さが肩に食い込み始めた。やはり荷物は軽い方が良いようだ。
端末を返し、次のコーナーへ向かう。
小さな乗り物が一列に並んでいる。
これが、日立館の主眼だ。
車に乗り込み、腕にセンサーをとりつけ、双眼鏡を目に当てると乗り物が動き出す。
その先々で、本当の景色(ジオラマ)とCGが双眼鏡で合成され、立体的に動物をみることができる。サイが襲ってきたり、すぐ近くでワニが大あくびをしたり。
それだけではなく、腕につけたセンサーの周りを鳥が飛び、フクロウが手のひらにとまり、いろいろな角度で希少動物を眺めたり、と、なかなか未来的な雰囲気を楽しめる。
パビリオンの一番人気というのも頷けるものだった。
(以下続く)
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