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2005年7月26日 (火)

攻殻機動隊

 テレビシリーズ「スタンドアロン・コンプレクス」や「2ndGIG」を観て感銘を受けて、海外で名高いこの作品を久しぶりに観なおしてみた。

 が、やっぱり肌に合わないというか、気に入らない。
 どこが気に入らないかというと、SFの設定がありきたりで、全体が嘘臭いという点だ。

 ハード・ボイルド(風)のストーリーも、ステレオタイプである、国家によるヒトの歯車化それによる悲哀というパターンに過ぎない。

 その点をもう少し掘り下げて書いてみると……
 まず、上でハード・ボイルド(風)と書いた。
 ハードボイルドそのものではなく、ハードボイルド風。

 一見した印象とは違って、このハナシはハード・ボイルドではない。
 カラダをキカイに変えられ、そのメンテナンスを国家に依存して生きねばならぬ、脳すらそのかなりの部分をキカイに置き換えられたサイボーグが、精神的に弱ったあげく、体すらもたぬ意識体(二十年ほど前のSFでは、同様のものは、エネルギー生命体として表現されていたはずだ)との融合へと逃避するハナシに過ぎない。
 どちらかと言えばサイコモノだな。

 余暇に、鉄(チタンかもしれんが、同じだ)の体で海へ潜り、「サイボーグがなぜ命の危険を冒してダイブする」とバドに問われ、「海中から水上へ浮かび出る時には、転生の希望を感じるからだ」なんていうのを聞くと、その病巣の深さに唖然としてしまう。

 銃撃戦のさなかにバドがつぶやくせりふも、なんだか嘘くさくてしらけてしまう。

 命の危険な状況で、軽口をたたくのは、プロではない。
 それは、コドモ向けのヒーローものアニメなどの、現実感無視のプロット作品でのみ通用するはなしだ。

 もちろん、半機械の体であるから滅多に死なないし、少々撃たれてもまた直せばよい、と考えているのかもしれないが、それなら、はっきりと示さないといけない。
 例えば、部下が腕を吹っ飛ばされるのを見て、
「オイオイ、もっと用心しろ!うちの課の予算はもうとっくにオーバーしてるんだ」
 くらい言わせないとね。

 あと、コムツカシイ言葉を覚えたての中学生がよくやるように、平易に語れることを持って回った言い回しでベラベラと垂れながすがごとくの押井節は健在だ。

 肉体を機械に変えられて生き続ける苦悩、なんてサイボーグ009や仮面ライダー、あるいは平井和正のサイボーグ・ブルースの主題で40年ほど前の流行だ。

 押井 守とその一派のさまざまな肉付けにもかかわらず、根本的に、主題が古いから興奮できないのだな。

 電子頭脳あるいは、ネットに「ダイブ」するのも、ギブソンの「ニューロマンサー」や、サイコダイバーシリーズ、あるいは寺沢武一の「ゴクウ」で珍しくもない。

 サイボーグ化した自分が生きているの死んでいるのか、なんて命題より、スタートレックの「転送」について、ドクター(ボーンズ)マッコイが、最初に転送された時、分解されたオリジナルが本当の自分で、その後惑星上で再構成された自分には魂がないのでは、と悩む方がずっとワクワクするし深淵だ。

 原作者の漫画家、士郎正宗はデビュー当時から知っているが、どうも彼は、SF好きのSFマインド知らずのように思える。

 むろん「論語読みの論語知らず」ならぬ「SF撮りのSF知らずな監督」が、とんでもない傑作を作りだしてしまうことはある。
 前にも書いたが、ブレードランナーに感動して、「俺もあんなのが撮りたい」と思いこんだリュック・ベッソンが、SFマインドレスな思考で撮りあげた、「フィフス・エレメント」はかなりの傑作だ。

 だが、それは希な例だ。
 知らない人間、理解していない者は書けない。

 その点、人間的には嫌いな部類に入るが、SFマインドという土性っ骨に関しては、かなりの信頼を置ける木城ゆきとの「銃夢」とは大違いだ。
 木城ゆきとは、本作は「カルマの克服」をテーマにしている、と後書きに書いているが、まあ内容から言っても、それは彼一流の諧謔にすぎず、彼が持てるSF知識を小気味よく披露する場として、銃夢なる作品を生み出したに違いない。

 あえてテーマといえば、脳が生身で体が機械の人間(主人公ガリィ)と、体が生身で脳がチップである天空人ザレム人のどちらがヒトたるべきか?というものかな。

 その中で、木城ゆきとは、そこにあるテクノロジはテクノロジとして、そのヒトあるいはモノによってなされる行為こそが、大切なのだと繰り返し物語を通して主張する。
 行為によって存在を示す登場人物たちは、甲殻〜のモトコのように悩みはしない。
 自らを自らのモチベーションで行動させず、国家、会社などに拘束された者に限ってよく悩む。
 転職できないサラリーマン、スピンアウトできない高校生たちには、内省的な悩みが多いものだ。

 レイバーで、かなりリアリティを追求していた押井組だが、「甲殻〜」では、随分ミスを犯している。
 二千年台の前半で、映画で語られるほどのヒトの機械化は成し遂げられない。
 いや、無論ストーリーであるのだから、どのような話にしようとも可能ではあるが、嘘くさくなるのは否めない。

 アクチュエーターやプロセッサの進化とメモリ・アクセス速度の増大、あるいは長年棚上げにされてきた「谷山・志村予想」が、英国の天才素学者ワイルズによって95年に証明されたように、あたらしい数学的なアプローチが人工知能の分野に行われ、飛躍的に演算速度が高まるなどして、ある程度のロボット化はなされるかもしれない。

 だが、今の技術進展速度から帰納的に推測し、さらに「天才」による劇的飛躍を考慮にいれても、アンドロイドを実現可能にするほどのセンサ技術の完成は今後50年では無理だ。

 まして、大脳生理学、免疫学とのからみもある脳の機械化などは不可能だと断言できる。

 ゲノムが展開されても、その内容は、ほとんど解明されていないし、DNA設計図から派生、分化する脳組織の機能解明も不可能だろう。

 科学技術の根底的な不連続進歩は、多くの企業や研究所が掲げている理想とは裏腹に、複数のグループのコ・オペレーションによってなされるのではなく、一人の天才のひらめきによって成就されるのであるから、100パーセントということは、ないだろうが、その可能性は限りなく無に近いものに違いない。
<無論、夢想家の思いつきに過ぎぬ程度の、ただひとすくいの発明発見を、実用的なレベルにまで引き上げるには組織力が不可欠だ。蛇足ながら……>
 
 それにしても、パペットマスターは、清掃局員をどのようにして洗脳したのだろう。
 彼は、その属する階級、経済状況から考えても脳を電脳化はしていないはずだ。
 ならば、如何にして暗示を与え、記憶をいじることができたのだ?
 それとも、セントチヒロなみに、今はやりの「語られなかった設定」の中で、彼ら一般人も記憶の増強、あるいは快楽のために、脳を直接刺激するマシンに依存して生活しており、その機械にクラッキングされ洗脳されたのだろうか?

 徳広正也の「狂四郎2030」のバーチャセックスマシーンのように、万人が利用する脳をいじることが可能な機械が普及した世界なのだろうか?
 そこらへんもいいかげんだなあ。
 気に入らない。
 説明不足は、製作者としては言い訳できない失態だ。
 分かっていて割愛するならいい、が、せめて、その痕跡を残すべきだ。
 たったひとことでも。
 スポンサーとのせめぎ合いで、ラッシュを観ながら適当にシーンをカットされたのでは、たまったものではない。

 そういえば、不治の性病が蔓延するあまり、肉体の直接接触による性交は廃れ、マシンによる快楽の交換がなされる、ってのは、最近では、確かスライ=スタローン主演のデモリション・マンで使われていた。

 ただ、個人的に、肥沃なデータに溢れているネット上で、何かのプログラムを核に、ある種の意識体が進化を続ける、というモチーフは魅力的だ。
 伝達速度の速いネット上では、進化も生物より速いような気もするし。

 我々より高次元な世界から我々を観察する者たちから観れば、我々の進化もあまりにめまぐるしくて、ついてこれないほどのものかも知れない。

 依って立つ土台が違えば、進化の形も速さも変わるだろう。

 ここまで書いて気づいた。
 押井一派に、SFを求めてもいけなかった。彼らは、単なるガンマニア、武器兵器オタク集団に過ぎなかったのだ。
 もちろん、加えて、組織における人間の摩擦軋轢描写に通じているということもあるが、根本的にSFファンではないのだ。

 だから、「レイバー」と「甲殻〜」のデキに差が生じたのだ。
 なるほど。

 だが、もう一つ疑問があるぞ。
 最後に首がちぎれとんだモトコのガリバー(あわわ、そいつは時計仕掛けだった)もとい、ゴースト(自我の意か?)をどうして、ただの戦闘員であるバドが、子供のマシン(ギタイというのだな)に移すことができたのだろう?
 ご都合主義に逃げてはいけない?


 ともかく観直してみて、『キャメロン絶賛』の理由は、ストーリーというよりも、その映像手法にあるのだと再確認できた。

 p.s.
 そうそう、キャメロンと言えば、彼は「銃夢」も好きみたいだ。
「ダークエンジェル」って、まんまガリィだもんな。
 特に、黒のスーツに身を包んで、塔の上から街を見下ろしながら立つ決めポーズなんて、こちらが恥ずかしくなるほど臆面なくパクっている。

p.p.s
 もちろん、木城ゆきと自身、絵のアングルなどを外国の漫画からパクっていたことは御存知の通りです。

P.P.P.S
 テレビシリーズについては別項にて。

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