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2005年7月26日 (火)

あれもこれもあり

実は、先日、ショックなことが連続してあった。
 それはある作品中で、「負うた子に教えられ」という慣用句を聞いたことに始まった。

 もちろん、良く使われる言葉であるから、その内容は知っていた。
 「船頭多くして……」と同様、上の句さえいえば、下の句は省略可能なほど、その認知度が高い、いわゆる紋切り型のいい回しだ。
 が、改めて「負うた子〜」の結句(というべきだろうな)を聞いたとき、実はその慣用句を正確に把握していなかったことに気づいたのだった。
 のみならず、その帰結文を知らなければ、きちんと使えるはずもないいい回しを、長らくしていたことを同時に知った。
 このように、皆が知っているという前提のもと、格言等の後半が省略されることはよくある。
 
 特に学生時代苦しめられた古典などはそうだ。
 当時は、なぜこのような、独りよがりな文章が、堂々とまかり通っていたのか不思議だった。
 だが、ある時期(確か浪人時代であったと思うが)、古典(古文)学習は、単語を覚えたり、つ、ぬ、たり、り等の、助動詞の活用形を覚えるのはさりながら、その神髄はその時代の社会背景(日本大陸を問わず)、権力の力関係すべてを丸呑みすることにある、と気づいた。
 その点が、単語を覚え語法を覚えるという点で、似ているように思えた英語学習とはかなり趣を異にすると知ってからは、ずいぶん勉強が楽になったことを覚えている。
 疑問を持ちながらの学習は、身が入らない。

 さて、「負うた子に教えられ」、続く言葉は「浅瀬を渡る」であった。

 このように、よく使ってはいるが、熟知していない言葉というのはよくある、というか、我々のほとんどはそのような半可通の知識で言葉を使っているのだろう。
 似たような例として、超弩級の弩(ド)がある。
 これは、大鑑巨砲時代の幕開けとして、英海軍が建造したドレッドノート号を、基準として(その大きさは当時の日本海軍技術力のほとんど上限の技術力であったが)、それに追いつき追い越せと技術を磨き、ド艦を上回る排水量、砲門を備えた戦艦を作り上げた時に冠せられた呼称である……が、いまや映画ですら「超ド級のスケール!」などと呼ばれるご時世だ。
 言葉の語源などどうでもいいのかもしれない。

 もちろん、文章で身を立てる人々は、こういう微細な問題にこそ神経をとがらさねばならないのだろう。
 細部にこそ神宿る、であるから。

 そのような古くからの言い回しはともかく、最近外国から入ってきた、あるいは、ネットワークやコンピュータ関係など、最近作り出されたばかりの言葉を、コンセンサス、おっとあぶない、周知のこととなっていない状態で多用するのは滑稽だ。

 まあ、明治以降、長らく、人気の出そうな外国の文献をいち早く見つけ、それを翻訳することでその道の大家と見なされることの多かったこの国では、未だに、外来語を滑稽なほど多用する愚物が多い。
 知り合いの大学教授にも、それだけでメシを食っていたのがいる。

 それ故、先日、国が音頭をとって行われた「外来語を日本語に置き換える」試みは強く評価したい。
 ピンぼけな言い回しもあるが、インフォームド・コンセントを納得診療と訳すなど、その努力は充分に伝わってくる。
 もっと先になれば、状況も変わるであろうが、今の段階では、言語の多様化は必要だとわたしは考える。
 現実的には、近い将来、英語という統一言語で世界は塗りつぶされるだろう。
 世界はせまくなり、人々はすべて言葉の通じるアミーゴとなる。

 だが、幼少時に覚える言語と、物心がついてから覚える言語では、その使われる脳の部位が異なっているというのは、大脳生理学では常識である。

 最初に覚える言語が、よりその人格の根底部分と結びついていると考えても間違ってはいないだろう。

 第一言語の文法や単語が異なれば、それがその国民の思想や思考形態に与える影響も無視できないのは想像に難くない。
 だからこそ、思想文化のバリエーションの温床としての言語の多様化は必要なのではないか。

 明治以前、山奥でひっそりと暮らす人々は、旅人を迎え入れると村娘を一晩添わせ、外部の血を採り入れるという風習を持つことが多かったという。
 心情的には納得いかない向きもあろうが、彼らは、純血が滅びの道を辿ることだと知っていたのだ。
 外部の血、遺伝子を定期的に採り入れずにいれば、滅亡しかないと。
 遺伝子レベルで考えても、バリエーションの多さは、種としてのタブネスさに通じる。
 世界を覆い尽くすネットワーク、その結果としての言語統一による画一化は、一時的に百花繚乱の文化熟成をもたらすかも知れないが、その先にあるのはパターン化され自己模倣去れ発酵し尽くした、薫り高い廃墟なのではないだろうか。

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